公取委が「ポコチャ」のライバー事務所に注意、独禁法が禁ずる「取引妨害」とは
2025/12/10 契約法務, コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法, エンターテイメント

はじめに
ライブ配信アプリ「ポコチャ」で配信する「ライバー」が所属する大手事務所4社が、退社したライバーの活動を制限する契約を結んでいたとして、公取委が注意していたことがわかりました。取引妨害などにつながるおそれがあるとのことです。
今回は独禁法が禁ずる取引妨害について見ていきます。
事案の概要
IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営する「ポコチャ」はライバーが歌や雑談、ゲーム実況などをライブ配信し、視聴者は「投げ銭」と呼ばれる有料アイテムを送って応援するという仕組みを取っており、国内利用者数最多のライブ配信プラットフォームとされます。
報道などによりますと、そのポコチャで配信を行うライバーらが所属する大手事務所、「AEGIS GROUP」「321」「WASABI」「Colors」の4社は、自社に所属するライバーとの間で「ライバーが事務所を退社した後、数カ月から1年程度、ライブ配信や他の事務所との契約を制限したり禁じる」内容のマネジメント契約を締結していたとのことです。
公取委は、このような行為は他の事務所が人気ライバーを獲得することを困難にしたり、ライバーの取引の機会を減らし事務所同士の自由な競争に影響を与えるおそれがあるとし、独禁法が禁止する取引妨害や拘束条件付取引につながるとして注意したと発表しました。
競争者に対する取引妨害とは
独占禁止法2条9項6号を受けた公取委の告示である一般指定14項では、「自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他のいかなる方法をもってするかを問わず、その取引を不当に妨害すること」を不公正な取引方法の一つとして禁止しています。
健全な競争行為ではなく、競争相手の契約やその履行を不正な手段によって妨害し、自己に有利な状況に持ち込もうとする行為です。
違反した場合には、公取委により当該行為の差止や契約条項の削除、その他必要な措置を命じる排除措置命令が出されることがあります(20条1項)。
なお、取引妨害は課徴金納付命令や罰則の対象にはなっていません(20条の2~7参照)。
取引妨害の行為態様
取引妨害は競争事業者の契約成立の阻止や契約不履行の誘引その他いかなる方法をもってするかを問わずその取引を不当に妨害することで成立するとされています。
やや漠然としていますが、実際に公取委によって該当すると認められた事例を見ていきます。
まず有名なものとして、鮮魚介類の卸売業者が競争関係にある卸売業者と買受人との契約を阻止するために買受人に威圧を加え、当該卸売業者のせり場の周囲に障壁を設置したり、その周辺を関しするなどして取引を妨害したという事例があります。公取委はこのような行為は取引妨害に該当するとしました(勧告審決昭和35年2月9日)。
他にも、家庭用ミシンメーカーが競争関係にある他社と契約した購入者に対し、払込済みの掛け金相当額を500円~1000円を限度として自社製品の販売価格から差し引くことにより、自社製品に変更するよう誘引したという事例があります(勧告審決昭和38年1月9日)。
これら以外にも、業務用カラオケ機器の販売やカラオケソフトの制作配信を行う事業者が子会社を通じて競争関係にある業者に対し著作物の使用許諾をしないといったもの(審判審決平成21年2月16日)や、海外製高級食器を輸入する事業者が日本国内で廉価で販売している事業者に供給しないよう輸出元に通報していたという事例があります(勧告審決平成8年3月22日)。
公正競争阻害性
上でも触れたように、取引妨害は「不当に」行うことによって違法となります。
これは一般に公正競争阻害性と言われますが、取引妨害における公正競争阻害性とはどのようなものを言うのでしょうか。
独禁研報告書(昭和57年7月8日)によりますと、行為の反社会性・反倫理性ゆえに直ちに公正競争阻害性が認められるわけではなく、その行為自体の目的・効果から見て価格・品質による競争が歪められるような行為に公正競争阻害性が認められるとしています。
その上で、公正競争阻害性は競争手段の不公正、自由競争の減殺、およびこれら2つの側面がともに有する場合に認められると言われています。
コメント
本件でライバー所属事務所の4社は、所属ライバーとの間で、退社後も一定期間配信活動や他の事務所との契約を制限する契約を締結していたとされます。
公取委は営業秘密の漏洩を防ぐといった合理的な目的も認められず、取引妨害や拘束条件付取引などにつながるおそれがあるとしました。
以上のように、競争関係にある他社の契約や取引を不当に妨害する行為は独禁法の不公正な取引方法に該当する場合があります。
直接の取引相手に他社と取引しないことを条件とする場合などは、別途排他条件付取引や拘束条件付取引等に抵触する可能性もあると言えるでしょう。
独禁法は製品の性能や品質、価格競争といった正常な競争行為を逸脱する手段を禁止しています。どのような場合に違法となるかを社内で周知して、予防を徹底していくことが重要です。
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