記者に営業秘密を漏洩したニデック元社員に賠償命令
2025/11/25 コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, メーカー

はじめに
東洋経済新報社が報じた内容が元ニデック社員によって不正に持ち出された情報に基づくものであったとして、ニデックが元社員および東洋経済新報社に対して計約1億1千万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が元社員に約270万円の賠償を命じていたことが明らかになりました。「営業秘密」に該当すると判断されたとのことです。
今回は、不正競争防止法における営業秘密について改めて確認していきます。
事案の概要
2023年2月10日、東洋経済新報社が運営するニュースサイト「東洋経済オンライン」において、精密小型モーターを製造するニデックに関する記事が掲載されました。その内容は、ニデックの子会社であるドイツの自動車部品メーカーとの顧客トラブルにより、ニデックが和解金を支払うことになったというものでした。
記事によると、巨額の和解金の支払いに対し創業者が不快感を示し、「コスト感性をもっと磨け!」と記されたスタンプが稟議書に付されていたといいます。
当該記事に関し、ニデック側で社内調査を行った結果、当時従業員であった男性が稟議書や人事情報などを不正に取得し、東洋経済新報社の記者に提供していたことが判明しました。ニデックは営業秘密が漏洩されたとして、元従業員および東洋経済新報社を相手取り、約1億1千万円の損害賠償を求めて提訴していました。
不正競争防止法の営業秘密とは
不正競争防止法第2条第6項によれば、「営業秘密」とは「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないもの」と定義されています。すなわち、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たす情報が営業秘密となります。
秘密管理性とは、情報が社内で秘密として管理されていることを指します。これは、従業員に対してどの情報が営業秘密であるかを明確に伝え、予期せぬ損害を防ぐ趣旨で設けられています。情報が客観的に秘密であると認識できるような措置が求められ、企業の規模や業態、従業員の職務、情報の性質などを総合的に考慮して判断されます。具体的な管理方法としては、「マル秘」表示、キャビネットの施錠、アクセス制限、パスワード設定、秘密保持契約の締結などが挙げられます。
有用性とは、当該情報が事業活動にとって有用な技術上または営業上の情報であることを意味します。ただし、情報が公序良俗に反する内容である場合や、違法性を有する場合は該当しません。
非公知性とは、情報が一般に知られておらず、または容易に知ることができない状態にあることをいいます。刊行物に掲載されている情報や、市販製品から容易に分析可能な情報は非公知性を欠くとされますが、製品を分解し多大な労力を要する場合には非公知性が認められる可能性があります。
営業秘密の侵害
不正競争防止法では、営業秘密に関する侵害行為として様々な類型が規定されています。まず、営業秘密に該当する情報を、権限のない者が窃取、詐欺、脅迫などの不正手段を用いて取得・使用・開示する行為が挙げられます(第2条第1項第4号)。
次に、権限のある者が営業秘密を図利加害目的で使用または開示する行為も該当します(同第7号)。たとえば、従業員が業務上知り得た情報を転職先に持ち出す行為などが該当します。
さらに、不正に取得された営業秘密であることについて悪意または重過失がある場合に、これを取得・使用・開示する行為も違法となります(第5号、第8号)。たとえ取得時に善意であったとしても、その後に悪意を持って使用または開示する場合も違法となります(第6号、第9号)。
そして、違法に取得された営業秘密を用いて製造された製品などを、図利加害目的で譲渡または輸出する行為も違法とされています(第21条第1項第5号、第2項第5号)。
営業秘密侵害に対する措置
営業秘密の侵害があった場合、営業上の利益が侵害された、または侵害されるおそれがあるときは、侵害の停止や予防を求める差止請求が可能です(第3条第1項)。また、侵害行為を構成する物の廃棄など、侵害の予防に必要な措置も請求できます(同第2項)。
すでに営業上の利益が侵害された場合には、損害賠償請求も可能です(第4条)。この際、損害額の立証を容易にするための措置が設けられており、損害額の算定方法に関する特則もあります(第5条)。その他にも、信用回復措置、秘密の使用推定、書類提出、損害計算のための鑑定制度など、様々な特則が設けられています。
さらに、刑事罰として10年以下の懲役、2,000万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります(第21条第1項、第2項)。
コメント
本件では、ニデックの元社員が社内の稟議書や人事情報などを東洋経済新報社の記者に提供していたとされ、東京地裁はそれらが不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するとして、元社員に約270万円の賠償を命じました。
不正競争防止法は営業秘密の侵害に対して厳格な規定を設けています。営業秘密と認められるためには、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たす必要がありますが、なかでも「秘密管理性」は特に重要とされます。秘密であることが第三者からも客観的に認識できるような措置を講じることが求められています。
企業としては、社内での営業秘密の管理体制に不備がないかを改めて確認し、万が一漏洩があった場合にどのような法的リスクがあるのかを社内で周知しておくことが重要です。
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