京都府警が「嵐山通船」の元社長を書類送検、会社法の特別背任とは
2025/11/06 契約法務, コンプライアンス, 危機管理, 会社法

はじめに
京都市右京区で鵜小屋が建設途中で放置されていた問題で、虚偽の説明をして業者と小屋の建設工事契約を締結し、会社に損害を与えたとして鵜飼を手掛ける「嵐山通船」(京都市)の元社長が書類送検されていたことがわかりました。
工事代金は約7700万円とのことです。今回は会社法の特別背任について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、嵐山通船の元社長の男性は一般社団法人「嵐山鵜飼慣行文化振興協会」(2021年6月に解散)の副理事長を勤めていたとされ、同法人の利益を図るため嵐山通船の株主総会で鵜小屋建設の工事費用を同社が負担しないと説明したにもかかわらず19年12月に同社が工事代金約7700万円を支払う内容の契約を市内の造園業者と締結していたとのことです。
男性は08年に同社に入社し、17年に社長に選任されたものの赤字経営が続いていたことなどを理由に20年に解任されていたとされます。なお鵜小屋は京都府が管理する国有地に存在し、協会が府に設置許可を申請し嵐山通船が建設の発注者となっていました。
背任罪とは
刑法247条によりますと、「他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」とされています。
一般的に背任罪の構成要件は、(1)他人から事務処理を委託されたこと、(2)任務違背行為、(3)図利加害目的、(4)本人に財産上の損害を与えたことと言われています。
事務処理の委託とは通常は契約によることが多いと言えますが、法令によって生じる場合もあります。また委任事務を処理する者だけでなく補助者や代行者も含まれるとされます。任務違背行為とは誠実な事務処理者として法的に期待される行為を逸脱することを言います。基本的には法令や定款、契約や内規などが基準となります。
そして自己または第三者の利益を図るか、または本人に損害を与えることを目的として本人に損害を与えることで既遂となるとされています。
会社法の特別背任とは
上記のように背任罪は「他人のためにその事務を処理する者」が対象となっておりますが、会社法の特別背任では会社の役員など一定の地位にある者に限定されています。
具体的には発起人、設立時取締役または監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、民事保全法上の職務代行者、一時取締役等、支配人、事業に関する委任を受けた使用人、検査役、清算人、清算人の職務代行者、一時清算人、清算代理人、監督委員、調査委員となっています(会社法960条)。
違反した場合には、10年以下の拘禁刑、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております。通常の背任罪と比べるとかなり法定刑が重くなっています。
業務上横領との違い
背任罪と似た犯罪として業務上横領があります。刑法253条によりますと、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の拘禁刑に処する」とされています。
顧客から集金した現金を使い込んだり、管理している会社の預金を私的に使い込むといった行為が典型例と言えます。特別背任は取締役など会社で一定の地位にある者に限定されています。一方で業務上横領は業務として他人の物を占有している者が対象となっています。
特別背任は返済見込みが無い他者への貸付や会社の売上を他の会社に横流すなど横領よりも行為の範囲が広いと言えます。
また、背任罪は図利加害目的が要件となっていることも横領罪との大きな違いとなります。
コメント
本件で嵐山通船の元社長は自己が副理事を務めていた一般社団法人の利益を図る目的で、鵜小屋の工事代金を会社が支払う契約を締結した疑いが持たれています。
これが事実であった場合は会社の取締役としての地位を有する者が、自己または第三者の利益を図る目的で逸脱した行為を行ったと言え、特別背任に該当する可能性が高いと考えられます。
以上のように会社の役員や従業員に適用される犯罪は多様で、同じ行為でもその地位によって法定刑が変わることもあります。これらを踏まえ、社内で周知して予防していくことが重要と言えるでしょう。
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