住吉会会長に賠償命令、商号続用で弁済責任を承継 ―東京地裁
2025/11/04   戦略法務, M&A, 事業承継, 会社法

はじめに

指定暴力団住吉会系組員による恐喝事件の被害者が同会の会長に損害賠償を求めていた訴訟で10月27日、東京地裁が約440万円の支払いを命じていたことがわかりました。
会長が交代しても弁済責任を負うとのことです。今回は商法および会社法の事業譲渡について見ていきます。

 

事案の概要

2022年、指定暴力団住吉会系組員による恐喝事件に関して、東京高裁は暴対法に基づく使用者責任を認め、当時の会長(故人)に賠償を命じる判決を出し確定しました。

しかし、賠償金の支払がなされなかったため、原告側は会社法22条1項の「営業を譲り受けた商人が商号を引き続き使用する場合には債務を弁済する責任を負う」との規定に基づいて、地位を引き継いだ現会長を相手方として新たに訴訟を提起していたといいます。

 

事業譲渡とは

事業譲渡とは、会社の特定の事業に関する資産や人材、ノウハウなどを一体として第三者に譲渡するM&Aのスキームの一つと言えます。

事業譲渡の定義について古い判例によりますと、一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって譲渡会社がその財産によって営んでいた事業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社が譲渡の限度に応じて法律上当然に競業避止義務を負うものとされております(最判昭和40年9月22日)。

事業譲渡については会社法21条~24条に規定があり、同様の規定が商法16条~18条の2にも置かれております。なお商法では事業譲渡ではなく「営業譲渡」とされておりますが内容は同じです。

 

商号を続用する場合の責任

会社法22条1項によりますと、事業譲渡を受けた会社が商号を続用する場合は譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うとしております。同様に商法17条では譲り受けた「商人」に同様の責任を課しております。

これは商号の続用により債務の主体の誤認や混同を生じさせるおそれがあることから譲渡会社の債務を譲受会社にも負わせ、譲渡会社の債権者を保護しようとする趣旨とされております。なお譲渡会社の商号を使用する場合でも、その商号の前に「新」を加えた場合は続用には当たらないとされております(最判昭和38年3月1日)。

商号を続用する場合でも、譲り受けた会社が遅滞なく譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記した場合、または遅滞なく債権者に通知した場合には上記の責任を負わないものとされております(同2項)。

また譲受会社が債務の弁済する責任を負う場合、事業譲渡の日から2年以内に請求または請求の予告を受けない場合、譲渡会社側の債務は消滅するとされております(同3項)。

 

事業譲渡に関する裁判例

事業譲渡に関する裁判例として、その事業によって生じた損害の賠償を求め提訴し支払を命じる判決が出たものの、被告会社が判決が出る寸前に自社の商号を変更し、その社長の親族が経営する会社が同社の商号と酷似する商号に変更したという事例が存在します。この事例で原告の会社は事業譲渡と商号続用があったとして親族が経営する会社に支払を求めさらに提訴しました。

この事例で裁判所は事業の譲渡を認めた上、商号の続用については取引通念上、従前の商号と同一の商号を継続した場合も商号の続用に該当するとし損害の賠償を命じました(東京地裁平成21年7月15日)。

商号の続用に該当するかについては商号の主要な部分が同一であることや、会社の種類、新などの別会社であることを示すような文字の有無などの要素を総合的勘案して判断していると言えます。

 

コメント

本件で東京地裁は、暴力団の組織的な活動は商法上の「営業」と同質で、被害の弁済債務は会長が交代しても、地位を引き継いだ現会長が負うと認め約440万円の支払を命じました。会長の地位の承継を商法上の営業譲渡と同視し、商号の続用も認めたものと考えられます。

以上のように事業譲渡・営業譲渡が行われた際には原則として譲渡会社がその事業で負った債務も承継することとなります。この義務を免れるためには遅滞なく登記するか通知が必要となります。

また債務を免れる目的や債権者を害する目的で事業を譲渡した場合、商号を続用していなくても承継財産の限度で譲受け会社に履行を請求することが可能な場合があります(会社法23条の2)。

事業譲渡の際にはその債務についてどのように取り扱うかも慎重に検討して準備することが重要と言えるでしょう。

 

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