韓国美容系YouTuberのイベント不参加を巡る訴訟、日本企業の請求をソウル地裁が却下
2025/10/15   契約法務, 海外法務, 民法・商法, 国際私法, エンターテイメント

はじめに

韓国の美容系ユーチューバーに出演を委託していた日本企業が不参加による違約金支払いを求めていた訴訟で14日、ソウル地裁が請求を却下していたことがわかりました。管轄は東京地裁にあるとのことです。

今回は国際裁判管轄について見ていきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、2023年2月、ある日本企業が韓国の美容系ユーチューバーと、同年5月に約300人規模、1泊2日の日程で開かれるイベントに講師として出演するという内容の業務委託契約を締結していたとされます。

契約金は500万円で、そのうち半分は前払いされており、残額はイベントの3日前までに支払うこととなっていたとのことです。しかし、同ユーチューバーが新型コロナウイルスに感染したため当初の予定通りの実施が困難となり、8月への延期で合意。その後、開催日3日前にユーチューバー側が後遺症を理由に再び不参加を通知していたといいます。

会社側は前払金とイベント準備に要した費用の2倍を加算した総額3億3100万ウォン(約3700万円)の支払いを求め、ソウル地裁に提訴していました。

 

国際裁判での適用法令と管轄

海外の個人や企業などとトラブルが生じた場合、どこの裁判所に訴えることができるのか、またどの国の法令が適用されるのかという問題に直面します。

前者が国際裁判管轄の問題で、後者が準拠法の問題です。近年グローバル化が進み、個人でもインターネットを利用した個人輸入や国際結婚などが急増しています。また、企業も海外の個人や企業との取引も増加しており、このようなトラブルも今後増加していくことが予想されます。

まず、準拠法とは国際的な紛争が生じた際に適用される法令を言います。たとえば日本とアメリカの企業が取引でトラブルが発生した場合、どちらの国の法令が適用されるかということです。これに関しては「法の適用に関する通則法」という法律で定められています。

一方の国際裁判管轄は、どちらの国の裁判所に裁判管轄があるのかという問題です。
以下、国際裁判管轄について見ていきます。

 

国際裁判管轄

国際裁判管轄については、従来日本では特にそれについて規定した法律は無く、原則として民事訴訟法の国内土地管轄規定の裁判籍のいずれかが日本にあれば、日本の裁判所に管轄を認める運用となっていました(最判昭和56年10月16日)。

その後、民事訴訟法の平成23年改正によって規定が新設され、国際裁判管轄については明文によって一定の解決が図られました。

改正法では、まず被告の住所地または主たる事務所・営業所が日本国内にある場合は日本の裁判所に管轄権があるとされています(民事訴訟法3条の2第1項、3項)。

さらに契約上の債務履行地が日本国内にある場合や、請求の目的が日本国内にある場合、不法行為があった地が日本国内である場合、不動産に関する訴えで不動産が日本国内にある場合などに管轄権が認められています(3条の3各号)。

 

専属的管轄合意がある場合

日本企業と海外企業の取引など、国際的な契約を締結する際には国際裁判管轄に関する条項を盛り込むことが一般的と言えます。

たとえば「両当事者間における本契約に関する紛争については、○○国の裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」といった条項です。日本の民事訴訟法でもこのような合意をすることが認められています(3条の7第1項)。

ちなみに、このような合意は書面または電磁的記録によることが必要であり、また「一定の法律関係に基づく訴え」に関するものでなくてはならないとされています(同2項、3項)。

この点に関して、「両当事者間に紛争が生じる場合」にはカリフォルニア州の裁判所を管轄とするとの条項があった例で、東京地裁は紛争が本契約に起因もしくは関連して生じているかにかかわらず適用される旨であり、「一定の法律関係に基づく訴え」についての定めではないとして無効としたものがあります(東京地裁平成28年2月15日)。

また、平成23年民事訴訟法改正以前の判例ではあるものの、一般人と海外企業との契約に盛り込まれていた海外裁判所を専属管轄とする合意が著しく公序法に反するとして無効とされた例も存在します(最判昭和50年11月28日)。

 

コメント

本件で契約書には「本契約に関するすべての紛争や訴訟は東京地裁を第一審の専属管轄裁判所とする」との条項が盛り込まれていたとされています。
また、イベント実施場所も原告の事務所も日本に存在し、証拠資料のほとんどが日本語で作成されていることから、日本の裁判所が管轄権を持つのが合理的とソウル地裁が判断したと考えられます。

本件は管轄合意に反して企業側が被告の住所地国の裁判所に提訴した珍しい例と言えます。
合意だけでなく資料や義務履行地なども考慮された結果と考えられています。

以上のように、国際的な契約に際しては原則として専属的管轄合意をすることができます。

しかし、それにも一定の要件が定められており、場合によっては無効とされる場合があります。海外企業との取引の際にはどこで訴訟が行われるのかについても慎重に検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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