公取委がハーレージャパンに課徴金納付命令、優越的地位の濫用について
2025/09/25 契約法務, コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法, 自動車

はじめに
米国バイクブランド「ハーレーダビッドソン」の日本法人「ハーレーダビッドソンジャパン」がディーラーに対し過大なノルマを課していたとして、公正取引委員会が同社に課徴金納付命令を出していたことがわかりました。課徴金額は2億1000万円超とのことです。
今回は優越的地位の濫用について見直していきます。
事案の概要
日本国内でハーレーダビッドソンブランドのバイクの卸売業を営むハーレーダビッドソンジャパンは遅くとも2023年1月31日~24年8月5日までの間、ディーラー38社に対して自社登録を行わなければ達成できないような小売販売目標台数(RSO)を課していたとされます。
同社はディーラーに対し協議や意見を述べる機会を与えず一方的にRSOを決定して同意させ、達成率が低い場合は次回のディーラー契約を更新しないなどの評価基準を設けていたいとのことです。ディーラーはRSOを達成するために自社登録を行わざる終えない状況に置かれ、同社の年間販売台数における自社登録割合は29~34%にまで達していたとされています。
これに対し、公取委は独禁法が禁止する優越的地位の濫用に当たるとして排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。
優越的地位の濫用
優越的地位の濫用とは、取引上の地位が相手方に優越している事業者が、取引の相手方に対しその地位を利用して不当に不利益を与えるような行為を言います。独禁法2条9項5号に規定されており、不公正な取引方法の一つとして禁止されています(19条)。
違反した場合、公取委は当該行為の差止めその他必要な措置を命ずる排除措置命令を出すことができ(20条)、また優越的地位の濫用行為を継続して行っていた場合は課徴金納付命令の対象となっています(20条の6)。
なお、一定の要件の下、親事業者と下請事業者の関係にある場合は別途下請法の規制が適用されることとなります。
優越的地位の濫用の要件
優越的地位の濫用の要件は大きく、優越的地位の存在、正常な商慣習に照らして不当に、濫用行為を行うこととされています。
公取委のガイドラインによると、「優越的地位」とは、取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、著しく不利益な要請等を行っても相手方が受け入れざるを得ない状態を言い、その判断に当たっては、取引依存度、市場における地位、相手方の取引先変更の可能性、その他取引をすることの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮されます。
一方で、「正常な商慣習」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものを言います。仮に現に存在する商慣習に合致していたとしても、それによって直ちに正当化されるものではなく、あくまでも競争秩序維持・促進の観点から正常なものでなくてはならないということです。
濫用行為の類型
優越的地位の濫用の行為類型としては、(1)購入・利用強制、(2)協賛金等の負担要請、(3)従業員等の派遣要請、(4)その他経済上の利益提供要請、(5)受領拒否、(6)返品、(7)支払遅延、(8)減額、(9)その他取引の相手方に不利益となる取引条件の設定・変更または取引の実施となります。
実際にあった違反事例としては、食品メーカーが新商品の発売に当たり、食品加工業者に発注し食品加工業者がこれに対応するために新たな機械設備を導入したにもかかわらずメーカー側から一方的に発注を取り消したというものがあります。
また、自動車部品販売店が自動車修理業者に対し、掛け売りに伴う債権保全を理由に著しく高額な取引保証金を一方的に設定し、その保証金を預託させていたという事例も存在しています。
コメント
本件でディーラー側はハーレーダビッドソンジャパンから課されたRSOを達成するために自社や社長などの名義で登録することを余儀なくされていたとされます。
これにより販売価格が仕入れ価格を下回り損失を出すケースもあったとのことです。公取委は自己の取引上の地位が優越していることを利用して不当に取引の相手方に不利益となるような取引を実施していたとして排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。以上のように独禁法および下請法では自社よりも立場の低い取引先に不当な不利益を被らせる取引などを禁止しています。
公取委の発表では2023年度の優越的地位の濫用に該当するおそれがある行為への注意は前年度比12件増の67件で09年以降最多となったとされます。自社の取引先に対し一方的な負担を強いていないか、見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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