建設会社の取締役だった男性に労災認定、役員の労働者性について
2025/08/28 契約法務, 労務法務, 労働法全般, 会社法, 建設

はじめに
千葉県の建設会社の専務取締役だった男性(当時66)が2017年に亡くなった件で東金労働基準監督署(東金市)が労災と認めていたことがわかりました。急性心筋梗塞だったとのことです。
今回は取締役など役員に労働関係法令が適用されるのか、労働者性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、男性は従業員約40人の千葉県の建設会社の専務取締役で2017年5月に急性心筋梗塞で亡くなったとされます。労基署の調査では、週休1日で主に現場監督として勤務し、直近2~6ヶ月の残業は月平均100時間を超え、過労死ラインとされる80時間を上回っていたとのことです。
男性は専務取締役ではあったものの、代表取締役に認められていた工事の受注や人員配置を決める業務執行権は無く、実質的には「労働者」だったとして2018年9月に労災認定がされていました。
男性自身が自主的に記録していた出勤簿や同僚らの証言が認定に重要な役割を果たしたとされています。
役員と労働者性
取締役などの会社役員は会社法上株主総会で選任され、その報酬も定款や株主総会で定められることとなっており、会社の従業員とは立場や待遇が大きく異なります。
そのため、これらの役員には原則として労働関係法令の多くが適用されず、時間外労働や深夜労働、休日労働を行っても割増賃金などは支払われないこととなります。
同様に労災の対象ともなりません。しかし一方で、この取締役としての地位が形だけのもので、実際には通常の従業員と何ら変わらない労働実態を持っている場合には、実質「労働者」と判断される場合があると言えます。
いわゆる「名ばかり取締役」です。
似たような概念として「名ばかり管理職」というものも存在しますが、こちらも問題の所在としては同様と言えます。これらは実際には労働者であるにもかかわらず、労基法の適用や社会保険・雇用保険などの各種保険の加入義務などを免れるために、形だけ取締役や管理職にしているといった実態があると言われています。
労働者性の判断基準
労働者性についてはこれまでも取り上げてきましたが、ここでも簡単に触れておきます。労働基準法9条では、「労働者」を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」としています。
ここから労働者性の判断基準として(1)他人の指揮監督下にあるか、他人に従属して労務を提供しているか、(2)報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われているかが導かれるとされます。
前者は「使用従属性」、後者は「報酬の労務対償性」と呼ばれます。使用従属性の判断に当たっては、仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無などが要素とされています。
報酬の労務対償性に関しては、事業者性の有無、専属性の程度などから総合的に判断することとなります。
名ばかり取締役に関する裁判例
入社当初は営業職として勤務していたものの、その後取締役にしたという事例で、実質的には労働者であるとして時間外勤務手当等の支払いを求め会社を提訴したという例が存在します(大阪地裁令和6年3月14日)。
この事例でも、裁判所は上記の使用従属性と報酬の労務対償性の判断枠組みを採用した上で、取締役会に参加しているものの業務執行に具体的に関与しておらず、取締役就任前と同様に一般従業員と同じくタイムカード打刻をして営業と配達業務に従事していたこと、月額報酬が就任前と変動がなく、雇用保険資格喪失手続き等も取られていないこと、引き続き雇用保険に加入していたこと、会社の指揮監督の下で労務を提供していたことなどから使用従属性を認め、「労働者」に該当すると判断しました。
名ばかり取締役に該当するかについては、就任の経緯や業務執行権限の有無、勤務に対する時間的拘束の有無、業務内容、業務に対する対価などが判断要素になると言われています。
コメント
本件では、亡くなった男性は専務取締役であったものの代表取締役に認められていた業務執行権が付与されておらず、他の一般従業員と同様に現場監督として働いていたことから、会社の指揮監督下での労務の提供であったと認められたものと考えられます。
その上で、直近2~6ヶ月の残業が月平均100時間を超えるなど過労死ラインも超えており、労災認定がなされました。
以上のように、取締役や管理職など社内では形式上そのように扱われていたとしても、その勤務実態が他の従業員と変わらない場合は「労働者」と判断される可能性が高いと言えます。
その場合は各種労働関係法令が適用され、時間外労働規制や割増賃金、労災保険、失業保険の加入などが必要となってきます。
これらを踏まえて、安易に形式上管理職や役員にすることは避け、適正な勤怠管理を社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。
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