全事業場へのストレスチェック義務化へ、労働安全衛生法等の改正について
2025/08/21 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般

はじめに
今年5月に成立した改正労働安全衛生法により、事業場のストレスチェックが全ての事業場で義務化される見通しです。
施行は3年以内に政令で定める日となっています。
今回は改正労働安全衛生法と作業環境測定法について概観していきます。
改正の経緯
令和7年5月、多様な人材が安全にかつ、安心して働き続けられる職場環境の整備を推進するため、個人事業主等に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害の防止の促進等、高年齢労働者の労働災害の防止の推進等の措置を講ずることを目的に、労働安全衛生法と作業環境測定法の一部を改正する法律が成立しました。
また、建設アスベスト訴訟の最高裁判決(令和3年5月)で労働安全衛生法22条(健康障害防止措置)は労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨と判断されたことを受け、個人事業者等が混在する作業での災害防止措置が見直されました。
以下、今回の改正点の概要を見ていきます。
改正の概要
(1)個人事業主等に対する安全衛生対策の推進
労働安全衛生法の改正で、個人事業者等の業務上災害の防止と、同じ事業場で働く労働者の災害防止のため、個人事業者等も労働安全法による保護対象および義務の主体として位置づけられました。
その上で注文者(建設業、造船業、製造業)は、労働者および関係請負人の労働者が同一の場所で作業を行う場合に、混在作業による労働災害防止のため、作業間の連絡調整等の必要な措置を講じることが義務付けられます。
個人事業者自身も安全装置を具備しない機械等の使用禁止、特定の機械等に対する自主検査の実施、危険・有害な業務に就く際の安全衛生教育の受講等が義務付けられます。
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進
事業場におけるメンタルヘルス対策に関し、これまではメンタルヘルス不調の未然防止の観点で労働者50人以上の事業場でストレスチェックが義務付けられており、50人未満の場合は努力義務となっていました。
これを全ての事業場に義務化されることとなります。
(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進
労働安全衛生法および作業環境測定法改正で、化学物質の譲渡等実施者による危険性・有害性情報の通知義務違反に対して罰則が設けられます。
また、化学物質の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知が認められます。
危険有害な化学物質を取り扱う作業場の作業環境において、労働者が有害な因子に曝露する程度を把握するために行う個人曝露測定について、その制度を担保するため法律上の位置づけを明確にし、有資格者により実施しなければならないこととなります。
(4)機械等による労働災害の防止の促進等
危険な作業を必要とする特定機械等(ボイラー、クレーン等)については安全性確保のため、製造許可と製造時等検査制度が設けられ、設置時、使用時の各段階で検査が義務付けられます。
また、これらの製造時等検査について民間の登録機関が実施できる範囲が拡大され、登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化し、検査基準への遵守義務が課されます。
(5)高齢者の労働災害防止の推進
近年、高年齢労働者の労働災害の増加が指摘されており、また高年齢労働者は他の年代と比べて労働災害の発生率が高く、災害が発生した際の休業期間も長いとされます。
そこで高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善、作業管理その他の必要な措置を講ずることが事業者の努力義務となります。
また、厚労大臣は事業者による措置の適切かつ有効な実施を図るため、必要な指針を定めることとなります。
施行期日
今回の改正法の施行日については、注文主等が講ずべき個人事業者等を含む混在作業による災害防止対策強化は公布日に既に施行となっています。
機械等による労働災害防止の促進については令和8年1月1日、化学物質による健康障害防止対策推進における個人曝露測定等の作業環境測定士等による適切な実施の担保については同年10月1日、個人事業者等自身が講ずべき措置については令和9年1月1日、職場のメンタルヘルス対策推進は交付後3年以内、その他は令和8年4月1日となっています。
コメント
今回の改正では、安全な職場環境の整備、個人事業者に対する安全衛生対策の推進、職場のメンタルヘルス対策、化学物質や機械等による労災防止、高年齢労働者の労災防止対策の推進など多くの改正点が盛り込まれています。
しかし、上でも触れたように、これらの施行日はかなり細かく分けられており注意が必要です。
特に多くの事業場で努力義務から義務に変わる「ストレスチェック」に関しては公布から3年以内となっており、具体的な施行日はまだ定まっていません。
事業者は、施行日に留意しつつ、早めに対策と社内での周知を進めていくことが重要と言えるでしょう。
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