建設資材会社が賃金不払いで書類送検、労働法の賃金規定について
2025/08/19 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 建設

はじめに
従業員に9ヶ月分の賃金を支払っていなかったとして、札幌市の建設資材会社とその取締役が札幌区検察庁に書類送検されていたことがわかりました。
不払い額は計420万円とのことです。
今回は労基法などによる賃金規定を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、札幌市の建築資材会社において、2023年9月~12月と2024年2月~6月の合わせて9ヶ月間で、従業員1人に対し計420万円の賃金不払いがあったとされています。
従業員が労基署に相談したことにより明らかになったとされており、会社には10人程度の従業員がいたが2024年12月から経営不振で在職者はおらず事実上倒産していたとのことです。
労基署は労働基準法違反の疑いで札幌区検察庁に書類送検しました。他にも不払いがあると見られ、その額は合わせて670万円に上るとされています。
労基法の規定
労働基準法第24条では、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められています。
これはいわゆる賃金支払い5原則と呼ばれ、(1)通貨払いの原則、(2)直接払いの原則、(3)全額払いの原則、(4)毎月1回以上払いの原則、(5)一定期日払いの原則を表しています。
天引きや中間搾取などされず、通貨で全額が直接労働者の手に渡ることを確保する趣旨と言えます。
会社が労働者に債権を有していても給与と相殺することは原則として許されず、所得税や住民税、各種保険料など法令で認められたもの以外は原則として天引きができません。
このように労働者の生活の基礎である賃金の支払いは労基法に厳格に規定が置かれており、違反した場合は30万円以下の罰金が科されます(120条1号)。
最低賃金規制
労基法第28条では、「最低賃金については最低賃金法の定めるところによる」とされています。
そして、最低賃金法では会社が労働者に対して最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとされており、対象労働者の範囲や具体的な金額を周知することも求められます。
最低賃金は時間給で定められており、地域別最低賃金と特定の産業を対象とする特定最低賃金に分けられます。
また、最低賃金は中央最低賃金審議会が毎年、地方最低賃金審議会に最低賃金改訂目安を提示し、地方最低賃金審議会がこれをもとに地域の実情を加味して具体的な金額を定めるとされています。
特定最低賃金は製造業や特定の小売業を対象としており、一般に地域別最低賃金よりも高く設定されています。
地域別最低賃金以上の賃金を支払っていなかった場合、50万円以下の罰金(最低賃金法第40条)、特定最低賃金に違反していた場合は労基法第24条違反となることから30万円以下の罰金が科されます(労基法第120条)。
給与不払いの際の従業員の対応
では、会社が従業員に給与を支払わなかった場合、従業員側はどのように回収すれば良いのでしょうか。
通常債権を強制的に回収するには仮差押等をしつつ裁判所に提訴して判決や和解調書などを得て、強制執行し、換価、配当といった手続きを経ることとなります。
しかし、給与については民法上、一般先取特権の対象となっており(306条)、現在では民事執行法の改正によって判決等の代わりに先取特権の存在を証明する文書があれば強制執行が可能となっています(民事執行法181条1項4号)。
つまり、雇用関係や未払賃金等が存在することを証拠で証明できる場合は訴訟によらずに債権回収ができるということです。
なお、会社が破産した場合でも、給与債権は破産手続き開始前3ヶ月分は最優先で、それ以前の分も原則として他の債権より優先的に弁済を受けることができます。
また会社が倒産している場合は未払賃金立替払制度を活用することも可能です。
コメント
本件で札幌市の建設資材会社は合わせて9ヶ月分の賃金を支払っていなかった疑いが持たれています。これが事実であった場合、労基法第24条違反で30万円以下の罰金となる可能性があります。
また、仮に会社が倒産している場合は従業員は未払賃金立替払制度の活用も考えられます。
以上のように従業員の賃金は労基法や最低賃金法で厳格に規定されています。
違反に対しては罰則が設けられており、また従業員は一定の要件の下、会社財産の差し押さえや倒産手続きで配当を受けることも可能です。
会社の資金繰りが難しい場合でも、従業員の賃金支払いが滞らないよう注意していくことが重要と言えるでしょう。
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