東芝不正会計訴訟で海外機関投資家の請求が棄却、金商法の虚偽記載責任
2025/07/22   商事法務, 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, 会社法, 自動車

はじめに

東芝の不正会計問題を巡り、株価の下落で損失を被ったとして海外の機関投資家らが計約274億円の損害賠償を求めていた訴訟で、東京地裁が17日、請求を棄却していたことがわかりました。金商法上の請求権者に当たらないとのことです。

今回は金商法の虚偽記載責任について見直していきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、海外の機関投資家らは、「2015年に発覚した東芝の不正会計問題(有価証券報告書の虚偽記載など)による株価の下落で損失を被った」として東芝に計約274億円の損害賠償を求め提訴していたといいます。

この原告らは、投資家に代わって株式を管理する金融機関が指定する第三者の名義で東芝株を保有していたとされています。

「形式的には金融機関が保有していたものの、株式取得の資金を提供したのは原告らであるとし、実質的な株主である」と主張していたとのことです。

 

粉飾決算に対する規制

有価証券届出書や有価証券報告書などの開示書類に虚偽の記載を行った場合、金商法ではまず粉飾決算としての責任が生じることとなります。
一口に粉飾決算と言ってもその態様は様々で、架空売上の計上、架空在庫の計上、子会社に対する架空売上の計上、グループ内循環取引などがあります。

金商法では「有価証券報告書もしくはその訂正報告書であって、従業な事項につき虚偽の記載のあるものを提出した場合」には、10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金となっており(197条1項1号)、法人に対しては7億円の罰金となっています(207条)。

また、金商法以外でも、粉飾決算をもとにして配当可能額が無いにもかかわらず、違法配当した場合は5年以下の拘禁刑、500万円以下の罰金となっています(会社法963条5項2号)。

それ以外にも粉飾された決算書類を使用して金融機関を欺き、融資を受けた場合に詐欺罪に問われた事例も存在します。

 

粉飾決算に対する民事責任

金商法17条~24条の5では虚偽記載に関わった会社や役員、監査法人などについて損害賠償責任の規定が置かれています。虚偽の記載を信用して被害を受けた投資家などの救済を図る趣旨と言われています。

虚偽記載のある目論見書や資料を使用して有価証券を取得させた場合や虚偽記載を行った場合、提出時の役員や監査法人、引受証券会社等は損害賠償責任を負うことになります。ただし、無過失を証明した場合には例外的に免責されます。

本来、不法行為責任では原告が被告の故意・過失の存在を証明することとなりますが、金商法の虚偽記載では株主は虚偽記載と損害を立証すればよく、被告側である会社や役員等が自己の故意・過失がなかったことを立証することとなります。

これは一般に立証責任が転換されていると言われます。
被告側は会社の財務状況などを適切に調査し尽くしていたことを立証する必要があります。

 

課徴金納付命令

上記の責任の他に、有価証券報告書などの虚偽記載については課徴金納付命令の対象となっています。

この粉飾決算での課徴金額については、有価証券届出書等の不提出・虚偽記載の場合は募集・売出総額の2.25%、有価証券報告書等の不提出の場合は直前事業年度の監査報酬相当額(該当するものがない場合は400万円)、有価証券報告書等の虚偽記載の場合は発行する株券等の市場価格の総額の10万分の6、または600万円のいずれか大きい方(四半期報告等の場合はその2分の1)となっています。

金商法では粉飾決算以外にも、インサイダー取引やTOB開始公告の不実施、大量保有報告書の不提出や虚偽記載、情報伝達・取引推奨行為なども対象とされています。

また、公認会計士法でも、故意または相当の注意を怠り、重大な虚偽、錯誤または脱漏のある財務書類を適正なものとして証明した場合に課徴金の対象とされています。

 

コメント

本件で東京地裁は、金商法が虚偽記載の賠償責任の対象とするのは「有価証券を取得した者で、自己名義の株主」と解釈するのが自然であると指摘した上で、原告らが金融機関側に対しどのような権利を持っているかは明らかでなく、東芝が双方から二重に請求されるリスクもあるとして、原告らに賠償請求する権利は認められないと判断したとされます。

金商法では条文で、有価証券を「取得した者」としており、形式的な株主である金融機関に請求者としての適格があると判断されたものと考えられます。

以上のように、金商法では粉飾決算に重いペナルティを置いており、刑事・行政上の責任だけでなく、株主等への賠償責任も置いています。

東芝では2015年の粉飾発覚から10年経過した現在でも訴訟などが残留しています。

今一度社内で周知し、粉飾の防止を徹底していくことが重要と言えるでしょう。

 

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