福岡県警が工藤会トップに賠償逃れと指摘、信託とは
2025/06/18 債権回収・与信管理, 訴訟対応, 契約法務, 民法・商法, 民事訴訟法

はじめに
特定指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップが北九州市に所有する土地23筆の所有権を親族に移していたことがわかりました。信託財産になっているとのことです。
今回は、信託法の信託について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、工藤会の総裁は1998年~2014年に北九州市などで市民や元警察官らが死傷した4事件で起訴され、現在公判中となっており、一部の事件に関しては遺族らが民事で提訴しているとされます。
既に確定した事件については、工藤会の本部事務所跡地の売却益が支払いに充てられたとのことです。
そんな中、他の特殊詐欺事件などでも被害者側から提訴され審理が係属している同会の総裁は、北九州市小倉北区にある土地23筆を自宅を親族2人に信託していたとされます。
これに対し、福岡県警は賠償金の支払いを逃れるため信託法を利用しているなどと批判し、暴力団の資産隠匿を防止するため、信託法の改正について法務省や警察庁に要望書を提出しました。
信託とは
信託とは、契約や遺言などにより、特定の者が一定の目的に従い財産の管理または処分その他の目的達成に必要な行為をすべきものを言います(信託法2条1項)。
たとえば、土地や建物、金銭などの財産を第三者に託し、それらを運用してもらい、その運用益を自己または第三者に与えるよう契約を締結するというものです。
自己の老後や幼い子供の将来のために一定の財産を信託しておくことや、多くの債権者から融資を受け、それらの者のために信託会社などに抵当権を信託して管理してもらうといったことに利用されています。
信託に供された財産は、形式上はその者の所有となりますが、実体的には信託目的のためにその者とは独立した存在となります。
そのため、相続などの包括承継の対象とはならず、また債権者が差し押さえるといったこともできなくなります。
信託の手続き
信託は契約や遺言などによって発生しますが、信託法ではいくつかの信託特有の用語が規定されています。
まず、信託をする者を「委託者」と言います(2条4項)。
そして、委託を受けて信託財産の管理・処分その他の信託目的のために必要な行為を行う者を「受託者」と言います(同5項)。
受託者による信託に必要な行為によって得られた利益を受ける者を「受益者」と言います(同6項)。
受益者を定めない場合や、まだ生まれていない子供を受益者とする場合など、受益者が現に存在しない場合は「信託管理人」を置くこともできます(123条)。
信託できる財産としては、金銭や株式、不動産など様々なものが対象となりますが、年金や農地は原則として信託できないとされています。
不動産を信託する場合は、所有権移転および信託登記を行う必要があります。
その際、信託の具体的な内容を記した信託目録を作成することとなり、所定の様式が用意されています。
信託登記の登録免許税は不動産価格に1000分の4を乗じた額となります。
なお、実質的には所有権は移転していないことから移転分は非課税です。
詐害信託とは
上でも触れたように、信託財産となった場合は債権者は当該財産を差し押さえることができません。
また、債務者が破産した場合でも信託財産は破産財団に組み入れられないこととなります。
これを信託の「倒産隔離機能」と言います。
しかし、これでは債務者の執行逃れに利用されてしまい、債権者を不当に害することとなります。
そこで信託法では、一定の場合を「詐害信託」として取り消しの対象としています(11条)。
これは民法の詐害行為取消権の特則とされています。
「委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合」に、「受託者が債権者を害することを知っていたか否かにかかわらず」、債権者は受託者を被告として詐害行為取消請求ができるとされます。
なお、受益者が現に存在する場合、その者も債権者を害することを知っていた場合に限ります。
善意の受益者は保護されるということです。
受益者が複数いて、そのうちに悪意の者が存在する場合は、委託者に受益権を譲渡するよう請求できます(同5項)。
コメント
本件では詳細は不明ですが、工藤会総裁は2020年に2回に分けて土地23筆を親族2人に信託したとされており、受益者は総裁本人とのことです。
県警は、賠償の支払いを逃れるためだと批判していますが、総裁側の弁護士は「信託当時、新たな訴訟が予想される状況ではなかった」とし、差し押さえを免れる動機はないとしています。
以上のように、信託法では一定の目的のために財産を信託することが可能です。
その場合、委託者の財産から独立した存在となるため、原則として強制執行ができなくなります。
一定の場合に取消権が認められているものの、委託者および受益者の悪意が要件となっており、裁判による必要があるなどハードルは低くないと言えます。
近年、認知症対策や空き家対策として家族信託が注目されたり、多くの金融機関から融資を受ける、いわゆるシンジケートローンなどで抵当信託が利用されています。
制度を正確に理解し、柔軟に利用していくことが重要と言えるでしょう。
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奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
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