福岡地裁が東輪ケミカルに2700万円支払い命令、「配車差別」と不当労働行為
2025/04/24   労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 物流

はじめに

 労働環境の改善を求めたことにより「配車差別」を受けるようになったのは違法であるとして、東輪ケミカルの従業員が同社に未払賃金の支払い等を求めていた訴訟で今年2月、福岡地裁が2700万円の支払いを命じていたことがわかりました。労働委員会も違法と認定していたとのことです。今回は配車差別と不当労働行為について見直していきます。

 

事案の概要

 RKB毎日放送の報道によりますと、東輪ケミカルでトラック運転手として勤務している従業員の男性は2019年8月、所属する営業所の同僚運転手19人をとりまとめ、待遇改善に関する要望書を当時の所長に提出したとされます。しかし会社側はこれを受け入れず、男性らに対し長距離や休日出勤を割り当てない「配車差別」をちらつかせるようになったとのことです。その後男性らは2021年12月に組合を結成し団交を申し入れ、未払賃金支払いの督促所を送付したものの会社からの回答はなく、労基署への申し入れによって会社側も反応したとされます。しかしその後2022年1月、会社側は男性らに対し配車差別を決定し当人らに告げたとのことです。

 

不当労働行為とは

 不当労働行為については先日も取り上げましたがここでも簡単に触れておきます。労働組合法7条各号では、会社が労働者や労働組合に対し行ってはいけない行為が規定されております。具体的には不利益取扱い(1号)、黄犬契約(1号)、団交拒否(2号)、支配介入(3号)、経費援助(3号)、報復的不利益取扱い(4号)が挙げられます。これら不当労働行為を行った場合でも、現時点では労働組合法には罰則は規定されておりません。そのため逮捕や起訴といったことは無いといえます。しかし労働委員会による救済命令に違反した場合には罰則があります。具体的には、救済命令が確定した後にその命令に違反した使用者は50万円以下の過料となります(32条)。また救済命令に対し取消訴訟を提起し、裁判所が棄却して救済命令が確定した後に違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

 

不利益取扱いとは

 労働組合法では不利益取扱いについて2種類の規定が置かれており、まず労働組合の組合員であること、労働組合に加入したり、結成しようとしたこと、正当な組合活動をしたことなどを理由として不利益取扱いをするというもの(1号)と、労働委員会に不当労働行為救済の申立てをしたこと、不当労働行為の命令について再審査申立てをしたこと、労働委員会の調査や審問、あっせんなどの際に証拠を提出したり発言をしたことを理由として不利益取扱いをするというもの(4号)があります。不利益取扱いの具体的な例として、条文では「解雇」しか挙げられておりませんがそれ以外にも配置転換や異動、降格、遠方への赴任など様々な扱いが該当すると言えます。最近認められた例としては、従業員複数名に対しLINEで組合への加入を勧誘するメッセージを送信したところ、会社の信用・信頼を失墜させる記載があったとして減給の懲戒処分をしたというものがあります。労働委員会はこれを不利益取扱いに該当すると判断しました(茨城県労委令和4年10月20日)。

 

支配介入とは

 支配介入とは、労働組合の結成または労働組合の運営に関して使用者が介入することを言います。具体的な行為としては、組合の結成妨害、組合員に脱退を働きかける、組合活動の中心的人物を解雇や配転する、活動を非難する、会社の施設利用を制限する、組合員と非組合員で扱いを異にするといった行為が該当します。裁判例としては、団体交渉がすでに継続している中、組合員を個別に呼び出して交渉しようとした例で、裁判所は団体交渉の実効性を失わせ、弱体化を図る行為として労働組合の運営に対する支配介入と認めたものがあります(東京高裁平成24年6月26日)。それ以外でも、社内報で組合の運動方針に対して執拗に批判したもの(東京高裁平成11年12月22日)があります。一方で会社側から賃金に対する考え方やスト中止要請など単なる意見表明である場合は支配介入には該当しないとされた例があります(中労委昭和57年6月2日)。意見表明行為についてはその状況や組合の運営、活動等に与えた影響、使用者の意図などを総合して判断されると言われております。

 

コメント

 本件で福岡地裁小倉支部は、東輪ケミカルの配車措置について、長距離乗務や休日出勤が給与の相当割合を占める労働事情の下、どの従業員にも時間外労働を命じることができるにもかかわらず、あえて原告らに時間外労働を命じないのは組合員であるが故の差別的取扱いであり、未払賃金を請求するという正当な権利行使を継続的に妨げる目的と推認されるとして不利益取扱いに該当するとしました。また経済的に圧迫することで組合内部の動揺や脱退等による弱体化を図るものとして支配介入に該当するとしました。以上のように賃金等の待遇改善を訴える従業員や労組に対し、他の従業員よりも不利益な扱いをすることは不当労働行為に該当する可能性が高いと言えます。前回取り上げた団交拒否も含め、どのような場合に違法となるかを確認し、社内で周知していくことが重要と言えるでしょう。

 

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