都内大手ホテル15社、価格カルテル(独禁法)のおそれで公取委が警告へ
2025/04/21 コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, サービス, 旅行業界

はじめに
都内の大手ホテルを運営する15社が客室単価などの情報を共有していた件で、公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いがあるとして、近く、再発防止を求める警告を出す方針だといいます。不正に価格を引き上げる「価格カルテル」につながりかねない、としています。
客室稼働率や単価などを情報共有か
警告を受けるとされているのは、都内の大手ホテルを運営する以下の15社です。
浅草ビューホテル、グランドニッコー東京 台場、京王プラザホテル、ザ・プリンス パークタワー東京、シェラトン都ホテル東京、The Okura Tokyo、セルリアンタワー東急ホテル、第一ホテル東京、帝国ホテル 東京、ハイアットリージェンシー東京、パレスホテル東京、ホテル椿山荘東京、ホテルニューオータニ、ホテルメトロポリタン、ロイヤルパークホテル
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この集まりは「FR(フロントリザベーション)会」と呼ばれ、数十年前から各ホテルの持ち回りで開催されてきたとみられていますが、既に15社は情報の共有をやめているとのことです。
各社は会合で得た情報をもとに、競合他社と客室稼働率や単価を比較し、価格の引き上げなどの判断材料に活用していた可能性があるとみられています。
会合で交換された情報の中には秘密性の高い非公開情報もあったということで、公正取引委員会は、宿泊料金の引き上げなどを図る価格カルテルにつながるおそれがあると判断したとみられています。
不当な取引制限について
独占禁止法で禁止されている不当な取引制限、通称「カルテル」。
カルテルは複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める行為を指します。
カルテルが起こることで市場での競争がなくなり、高い価格が設定されることになります。そのため、消費者は価格によって商品を選ぶことができなくなるおそれがあります。
さらに、本来なら安く買えたはずの商品を高く買う必要が出てくるため、消費者のデメリットに繋がる行為として禁止されています。
カルテルには複数の種類がありますが、中でも、「価格カルテル」は、商品やサービスの販売価格やその上限・下限について合意するカルテルです。
価格カルテルの要件は、(1)主体が「事業者」であること、(2)他の事業者と共同して対価を決定・維持・引き上げる等、相互にその事業活動を拘束し、または遂行すること(いわゆる「意思の連絡」)、(3)公共の利益に反して、(4)一定の取引分野における競争を実質的に制限することの4つとされています。
価格カルテルは密室で行われることが多く、事業者同士がある種の共犯的な協力関係にあることから、特に、(2)の「意思の連絡」の直接証拠が得られにくい点が特徴として挙げられます。
課徴金減免制度(リニエンシー制度)の導入により、事業者からの十分な供述や直接証拠が得られるケースが増えてきましたが、そうでない場合には、「意思の連絡」の立証のために状況証拠を活用する必要があります。
ちなみに、「意思の連絡」に、契約や協定などの明示の合意までは必要ないとされており、相互に他の事業者の行為を認識して、暗黙に認容することで足るとされています(東芝ケミカル事件 東京高裁判決_平成7年9月25日)。
そのため、事業者間で、価格の引き上げについて、明示または黙示的に「合意を遵守し合う関係」が認められるなどすれば、規制の対象とされます。
なお、カルテルによって、他社や消費者に損害を与えた事業者はその損害を賠償する責任を負います。この責任は、故意や過失がない場合にも責任を免れない「無過失責任」とされています。さらに、排除措置命令に従わない場合には刑事罰が科されます。
コメント
コロナ禍後、訪日外国人観光客の増加や国内旅行需要の伸長、物価高や人手不足などの影響を受け、都内のホテルの客室単価は急騰しており、2024年の平均客室単価は2019年比で約1.4倍となっていると言われています。
今回の報道を受けて、各ホテルはコメントを出していますが、いずれも、「不当な取引制限を意図して会に参加していたわけではない」としています。
一方で、専門家の中には、価格帯が近い老舗ホテル同士の情報共有により、客室単価の足並みが揃い利益率が維持される、単独での安売りによるブランド価値低下を避けられるなどの効果があったのではとの見方もあります。
今回のように、たとえ、定例会・勉強会・情報交換会などの名目であっても、企業間の意図的な情報共有があれば、それ自体が独禁法上の問題となり得ます。
会社として、情報交換の場での発言内容や記録の取り扱い、議事録の管理について適正なガイドラインを設け、営業や広報担当者などに対するコンプライアンス教育を徹底することが大切になります。
また、自社がこうした会合に参加していた履歴がある場合、第三者による調査や内部監査を通じてリスクの有無を洗い出し、速やかに是正措置を講じることが、将来的な行政対応・訴訟リスクを軽減するうえでも極めて重要です。
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