東京地裁がSnow Manチケット転売でサイト運営会社に命令、情報開示請求ができる場合とは
2025/03/24 コンプライアンス, 危機管理, 訴訟対応, プロバイダ責任制限法, エンターテイメント

はじめに
「STARTO ENTERTAINMENT(スタートエンターテイメント)」は19日、東京地裁がチケット転売サイトの運営会社に対し、出品した人の発信者情報開示命令を出したと発表しました。同様の問題を抱える業界全体にとって解決策となるとのことです。今回は発信者情報開示請求とそれができる場合を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、旧ジャニーズ事務所からマネジメント業務を引き継いだスタートエンターテイメントは2024年11月28日付で、コンサート主催会社を通じて、オンラインで個人間のチケット売買を仲介する「チケット流通センター」の運営会社に対し、9人組グループ「Snow Man」のコンサートチケットが出品された16件の情報開示請求を行ったとされます。しかしこれに対し運営会社が応じなかったため、12月13日に同社を相手取り、東京地裁に発信者情報開示命令を求める申し立てを行ったとのことです。東京地裁は今月10日、16件について開示命令を出しました。
発信者情報開示とは
SNSなどインターネット上で誹謗中傷を受けたり、名誉毀損的な投稿がされた場合、投稿者に対しては差し止め請求や損害賠償請求、また刑事告訴を行うなどの法的措置を取ることができます。しかし投稿者がどこの誰なのかがわからなければ法的措置を取ることもできません。そこで一定の要件の下、投稿者等の氏名や住所などの情報の開示をプロバイダなどに請求することができます。それが発信者情報開示制度です。具体的にはプロバイダ責任制限法という法律に基づいて開示請求を行うことができます。この法律は、インターネット上で権利侵害があった場合のプロバイダの責任の制限や発信者の情報についての開示請求、またそれらの裁判手続きについて規定するものです(1条)。
発信者情報開示請求ができる場合
それではどのような場合に発信者情報開示請求ができるのでしょうか。プロバイダ責任制限法5条1項によりますと、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は」としております。つまりネット上で誹謗中傷を受けた場合や名誉毀損、信用毀損的投稿がなされた場合等だけでなく、広く権利侵害が対象となっております。例えば著作権侵害といった自社のIPや知的財産権が侵害されているといった場合でも発信者情報開示の対象となり得ます。特に近年では、Winnyやビットトレントといったファイル共有ソフトを介して多くの著作物が違法に流出しており、被害は増加の一途を辿っております。またこれら以外でもプライバシー権侵害や肖像権侵害、パブリシティ権侵害といった事例でも発信者情報開示の活用の可能性があると言えます。
その他の要件と手続き
プロバイダ責任制限法5条によりますと、上記の他の要件として、権利侵害の明白性、正当な理由、そして相手方が「開示関係役務提供者」であることが挙げられます。まず権利侵害の明白性は、上記のように権利侵害があるというだけでは足りず、それを正当化する事情が無いことも必用です。たとえば名誉毀損の場合は真実性や公共性、公益性が無いことまで必用とされます。そして発信者の情報を求める正当な理由も必用です。たとえば損害賠償請求や差し止め請求といった法的措置を取るためといった場合は認められますが、私的な制裁をする目的の場合は認められないと言えます。最後に相手方が開示関係役務提供者である必用があります。これは例えばプロバイダーやサイト運営者、サーバー管理者などが該当しますが、営利を目的としない大学や自治体、また個人なども含まれます。従来発信者情報開示の手続きは、(1)発信者情報開示の仮処分申立、(2)ログ保存の仮処分申立、(3)発信者情報開示請求訴訟、(4)損害賠償請求訴訟と4つの裁判手続きが必用でした。現行法ではこれに加え発信者情報開示命令事件に関する裁判手続が新設されており、1回の手続きで行えるようになっております。
コメント
本件でスタートエンターテイメントは自社の管理するアイドルグループのコンサートチケットの転売について情報開示請求を行い、東京地裁はこれを認めました。現在コンサートや映画、スポーツなどのチケットに関しては、チケット不正転売禁止法によって、不正転売が禁止されております。不正転売とは興行主の同意を得ずに反覆継続して有償で通常価格を超える価格で転売することを言います。違反した場合には1年以下の懲役100万円以下の罰金となっております。しかし現在でも個人等による転売が横行しているのが現状とされます。プロバイダ責任制限法による発信者情報開示制度は誹謗中傷や名誉毀損だけでなく、多くの権利侵害の場合に利用できる可能性があります。このような制度も存在するということを確認し、準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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