エーバランス元役員に有罪判決、インサイダー取引はなぜ発覚するのか
2025/03/19 金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法, メーカー

はじめに
太陽光パネル製造会社「Abalance(エーバランス)」株をめぐるインサイダー取引事件で東京地裁が17日、同社元執行役員に懲役2年6月、執行猶予4年の判決を出していたことがわかりました。今回はインサイダー取引とそれに対する調査について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、エーバランス社の投資家向け広報(IR)や経営企画を担当していた元執行役員は2023年1月中旬頃、太陽光パネルを製造販売する子会社が固定資産を取得する決定をしたとの重要事実を知り、公表前の同月下旬頃、同社株1万9400株を約5300万円で買い付けたとされます。その後同年2月10日に同社は工場新設に関する事実を公表し、翌日には同社株の株価は3145円から3840円に上昇したとのことです。この取引により元執行役員は計約5000万円の利益を得たとされております。なお今回の株式購入の際に証券会社から問い合わせを受けたものの、「役員ではない」と虚偽の説明をしていたとされております。
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、上場会社の役員や従業員など、会社内部の者しか知り得ない有益な情報が一般に公表される前に株取引などを行うことによって利益を得ようとする行為を言います。しかしこのような行為は証券取引市場での取引の公正や公平を著しく阻害し、一般投資家からの市場に対する信頼を失墜するものと言えます。そこで金融商品取引法ではインサイダー取引を厳しく規制しております(166条)。インサイダー取引を行った場合には、罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらが併科され(197条の2)、法人の業務として行っていた場合には両罰規定として法人に対しても5億円以下の罰金が科されます。またインサイダー取引によって利益を得ていた場合は没収の対象となり、没収できない場合はその価額について追徴されることとなります(198条の2)。さらにインサイダー取引は課徴金納付命令の対象となっております(175条)。
インサイダー取引の要件
(1)対象となる者
インサイダー取引規制の対象となる者としてまず会社関係者が挙げられます。会社関係者とは、上場会社の役員や従業員、上場会社の取引先や顧問先、同一法人の他の役員や従業員とされております。つまり自社だけでなく他社株に関しても規制の対象となっているということです。そしてこれら会社関係者から重要事実を直接聞いた人も同様に規制の対象となっております。これを情報受領者と言いますが、これは会社とは無関係な第三者でも該当することとなります。
(2)重要事実
インサイダー取引規制での重要事実とは、会社の株価に影響を与える情報を言います。これは子会社の情報で企業集団の経営に大きな影響を与えるものも含むと言われております。重要事実の具体例としては、株式の発行、株式公開買い付け(TOB)、合併などの組織再編、業務上の提携、災害に起因する損害、行政処分、巨額の架空売上、新製品の開発、製品の検査数値改ざん、巨額の協調融資、業績予想や配当予想の大幅修正、行政処分などとなっております。会社にとって良い情報もあれば悪い情報もあり得ます。
(3)公表
インサイダー取引は上記重要事実が公表される前に株取引等を行うことによって成立します。この公表とは、重要事実が証券取引所の適時開示情報閲覧サービス(TDnet)に掲載される、2つ以上の報道機関に対して公開され、12時間が経過する、有価証券届出書を提出し、電子開示システム(EDINET)で公開されるのいずれかを言います。会社のHPに掲載するといった程度では公表に該当しません。
(4)株式の売買等
インサイダー取引における『株券等の売買」とは、重要事実が公表される前に利益を得、または損失を回避するために株式を売買することを言います。またこれは自身で行わなくても公表前に利益をえさせる、または損失を回避させる目的で他者に情報伝達・または取引推奨することでも成立します。この場合は結果として相手が実際に公表前に取引をしたことが必用です。
日本取引所自主規制法人による監視
金融商品取引所での自主規制業務を専門に行うために日本取引所グループに設置されている日本取引所自主規制法人は上場審査や上場管理、考査など様々な業務を行っております。その中でも株式市場で不公正な取引が行われていないかを監視する売買審査が重要です。同法人は重要事実が公表された銘柄について、その前後で大きな取引がなかったかをチェックしているとされます。株価や売買高の動向に対し不自然な取引をシステムで抽出し、取引を行った者に対して注文の経緯などを照会し、インサイダー取引が疑われる場合は証券取引等監視委員会に報告していると言われております。これによりインサイダー取引が発覚することとなります。
コメント
本件で東京地裁はエーバランスの元執行役員に対し、インサイダー取引をしたとして懲役2年6月、執行猶予4年、罰金250万円、追徴金1億307万円の判決を言い渡しました。市場の信頼を大きく損ねる犯行と指摘しております。以上のようにインサイダー取引について金商法ではかなり厳しい罰則を置いております。また上でも触れたように重要事実が公表された会社については自主規制法人が漏れなく取引をチェックしており監視の目を逃れることは困難と言われております。どのような場合にインサイダー取引となるか、また誰が対象か、そしてどのようにして当局に発覚するのかを社内で周知し、防止していくことが重要と言えるでしょう。
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