米ファンドがフジテレビに調査要求、総会調査者制度とは
2025/01/20   商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
フジテレビを傘下に持つ「フジ・メディア・ホールディングス」の株主である米国投資ファンドが、タレントの中居正広さんをめぐる騒動について第三者委員会の設置など調査を求めていることがわかりました。会社法に基づく調査請求がなされる可能性があるとのことです。今回は会社法の総会調査者制度について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、タレントの中居正広さんが週刊誌で女性とのトラブルが報じられ、このトラブルにフジテレビ社員も関与していたのではないかとの報道がなされことにつき同社は否定するコメントを発表しておりました。この問題についてフジ・メディアHDの株主である米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が14日に書簡を公表し、「エンタメ業界の問題だけでなく、『フジ』の企業統治に深刻な欠陥があることを露呈している」と指摘し、第三者委員会による調査を求めたとされます。ダルトン・インベストメンツはフジ・メディアHDの株式を約7%保有しており、同社の対応次第では会社法に基づく調査者制度の利用に発展するのではないかと指摘されております。
総会資料調査者とは
会社法316条1項によりますと、「株主総会においては、その決議によって、取締役、会計参与、監査役、監査役会及び会計監査人が当該株主総会に提出し、又は提供した資料を調査する者を選任することができる」とされております。総会資料調査者と呼ばれております。これは総会検査役とは異なり裁判所が選任する必要はなく、株主総会の普通決議によって選任することができると言われております。調査対象は条文にもあるように役員等が株主総会に提出した資料となっており、それ以外の例えば会計帳簿や計算書類等には及ばないと考えられております。この調査者は欠格事由については特に規定されておりませんが、調査対象である資料等の提出者である役員等は調査者にはなれないと言われております。
業務財産調査者
上記のように総会資料調査者は株主総会で選任され、調査対象は役員等が提出した資料のみとなります。しかし316条2項によりますと、株主により招集された株主総会では、「その決議によって、株式会社の業務及び財産の状況を調査する者を選任することができる」としております。株主総会は原則として取締役によって招集されますが(296条3項)、一定の要件の下株主も招集することが可能です。総株主の議決権の3%以上(公開会社では6ヶ月前から引き続き)保有する株主は株主総会の招集請求をすることができ、請求後遅滞なく招集手続きが行われない場合、または請求日から8週間以内の日を開催日とする招集通知が発せられない場合は裁判所の許可を得て株主自ら招集できます(297条1項~4項)。このような株主総会では上記の総会資料調査者だけでなく、会社の業務や財産状況を調査する者を選任することができるとされております。
総会検査役
会社法ではこれらの調査者とは別に「総会検査役」というものも用意しております。総株主の議決権の1%以上を保有する株主は、株主総会に先立ち、裁判所に総会検査役の選任を申し立てることができるとされております(306条1項)。調査者と異なり裁判所が選任する点が大きな違いと言えます。そして調査対象は、株主総会に係る招集手続きと決議方法となっております。違法または不当な手続を防止し、事後の紛争を抑止することと後日紛争が生じた場合に検査役の報告書を証拠とする証拠保全が趣旨とされております。検査役は株主総会の招集手続や決議方法について必要な調査を終えた後、その結果を記載・記録した報告書w裁判所に提出し、その写しが会社にも提供されることとなります(同5項、7項)。その結果株主総会に取消事由等があった場合、裁判所は取締役に株主総会の招集と結果報告を株主に通知することを命じることとなります(307条1項)。
コメント
会社法が規定する調査者制度は2021年に東芝の株主であった投資ファンドが株主提案し、3人の弁護士が選任されたことがきっかけで広く知られるようになったと言われております。その後同様の株主提案が増加し、最近では健康被害問題で揺れていた小林製薬でも提案がなされたとされます。本件でも米投資ファンドがフジ・メディアHDに対し第三者委員会の立ち上げと調査を求めており、同様に株主総会の招集や調査者選任の株主提案がなされるのではないかと指摘されております。以上のように会社法では株主に様々な調査権限を付与しており、請求要件や選任手続、調査対象などが異なっております。近年物言う株主やアクティビストの活動が活発になっており、定時総会でも積極的に株主としての権利行使を行っております。どのような制度、どのような手続が必要かを確認し、周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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 山田 達郎 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 シニアアソシエイト/第二東京弁護士会所属)
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 高橋 知洋
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