「タイヤ館」でパワハラか、新入社員が自殺で遺族提訴
2025/01/07 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 自動車

はじめに
カー用品店「タイヤ館」の新入社員だった24歳の男性が3年前に自殺しました。遺族は、2024年12月26日、自殺は上司からのパワハラが理由だったとしてタイヤ館を展開するブリヂストンリテールジャパン株式会社を相手どり、約6500万円の損害賠償を求め、京都地方裁判所に提訴しました。
“安全配慮義務違反あった”遺族が提訴
訴えを起こしたのは、「タイヤ館」に勤めていた男性(当時24歳)の両親です。男性は2021年4月にブリヂストンのグループ会社で、タイヤ館の運営会社であるブリヂストンリテールジャパンに新入社員として入社。5月から「タイヤ館」の京都市内の店舗で勤務し、タイヤ交換や持ち運び、作業場の清掃などを担当していました。
しかし、同年10月から11月ごろ、男性は数回、仕事中の態度やミスを巡って上司から強く叱責を受けたといいます。さらに、12月2日、作業中に注意を受けた際、男性がエレベーターのスイッチを殴るしぐさをしたところ、店長からほかの社員の前で叱責を受け「器物損壊で警察に被害届を出す」などと言われたということです。
翌日3日、男性は店長に謝罪。しかし別の上司から「どう責任をとるのか、お金はあるのか、親に迷惑をかけるのか」などと言われたうえ、精神科を受診するよう両親に伝えるなどという発言があったと見られます。この日、男性は自ら命を断ちました。
京都南労働基準監督署は、上司が行った発言は「社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃」を含むもので“パワハラ”に該当すると判断。2024年4月、男性の自殺を労災と認定しました。
そして、2024年12月26日、男性の両親は会社に安全配慮義務違反などがあったとして約6,500万円の損害賠償を求める訴訟を京都地方裁判所に提起しました。
ブリヂストンリテールジャパンの親会社、株式会社ブリヂストンは「亡くなったことについてお悔やみ申し上げたい。労災が認定されたことも認識しており、特別遺族補償金を支払い、当社の規定に基づいて対応している」とコメントしたうえで、「訴状が届いていないのでコメントは控えたい」としました。
パワハラ防止法で事業主が講じるべき措置
2019年に改正された労働施策総合推進法では、事業主に対し、職場におけるパワーハラスメントの防止措置を講じることを義務付けており、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。
パワーハラスメント防止に必要な体制の整備や、雇用管理上必要な措置として、具体的には以下が求められています。
(1)パワハラに関する方針を明確化し、社員に周知・啓発すること
(2)パワハラの相談に適切に対応するための体制を整備すること(窓口設置など)
(3)職場でハラスメントの相談を受けた際に、迅速かつ適切に対応すること
(4)相談に協力し、事実を話した社員への不利益取扱いを行わないこと
なお、これらのパワハラ防止措置義務等に違反した場合でも、罰則規定はありません。
しかし、厚生労働大臣は必要と認めた場合、助言・指導・勧告をすることができ、勧告に従わなかった場合には企業名が公表される場合があります。
コメント
小さなころから車が大好きだったという男性が、入社8ヶ月目で自殺に至った痛ましい事件。パワーハラスメントは、ときに人の命を奪う重大な結果を招きます。
その一方で、逆に上司が部下との関係性に悩むケースもあります。2020年には、静岡市の男性職員が、歴の長い部下から「急に休まないでください」「いいかげんにしろ」などと度々強い口調で責められ、うつ病と診断された後、自殺に至っています。この事案では、遺族が逆パワハラを理由に市に対し、6000万円超の損害賠償を求める訴訟を静岡地方裁判所に提起しています。
上司→部下、部下→上司、同僚間など、その関係性を問わず、社内でのコミュニケーションには細心の注意が必要になります。
また、社内でパワハラが疑われる場合、相談窓口の充実や、迅速な対応ができる体制づくりをしておくことで、被害を最小限に抑えられる側面があります。
教育・周知などによるハラスメントの予防はもちろんのこと、ハラスメントと感じた相談者が安心して声を上げられる環境を整えることが、今後の企業運営にとって重要なテーマとなります。
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