福岡高裁が日本語学校の申し立てを認める、行政処分の執行停止とは
2024/08/22 外国人雇用, 行政対応, 訴訟対応, 入管法, 行政法

はじめに
福岡市の日本語学校が、日本語学校と認める告示を取り消した処分は不当だと訴えた訴訟で14日、福岡高裁が同校が申し立てた執行停止を認める決定を出しました。一審福岡地裁は請求を棄却していたとのことです。今回は行政処分の執行停止について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、福岡市にある日本語学校「西日本国際教育学院」は2021年、当時の職員がベトナム人留学生のズボンのベルトと自分のベルトを鎖で繋いで拘束する人権侵害があったとし、出入国管理庁から日本語学校として認める告示を取り消す処分を受けたとされます。これに対し学校側は出入国管理庁の処分は不当だとして処分の取り消しを求め福岡地裁に提訴していたものの、福岡地裁は今月3日に請求を棄却していたとのことです。これを受け学校側は控訴するとともに留学生の受入れを続けられるよう福岡高裁に処分の執行停止を申し立てておりました。なお同校は7月も約200人の留学生を受け入れる予定であったとされます。
行政処分と執行不停止の原則
国や自治体などの行政庁による行政処分に不服がある場合、処分の取消訴訟や不服申立てを行うことがあります。しかし行政事件訴訟法25条1項では、「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」としております。これを執行不停止の原則と言います。つまり訴訟等を提起してもそれにより当然には行政処分の執行は停止しないということです。これは行政の円滑な運営や濫訴の予防などが趣旨とされております。しかしこれでは取消訴訟を提起しても、行政処分の執行は止まらず、本案判決が確定するまで原告の権利や利益は保全されないこととなってしまいます。そこで判決が確定するまでの間に仮の救済が必要となってきます。民事訴訟ではこのような場合は仮処分の申し立てを行うこととなりますが、行政訴訟では民事保全法の仮処分は制限されます(44条)。そこで執行停止の制度が用意されております。
執行停止の要件
執行停止には3つの要件があり、まず(1)処分の取消訴訟が提起されていることが必要です(25条2項)。そして(2)処分、処分の執行または手続きの続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があることも必要です。これらの要件をいずれも満たした場合に裁判所は申し立てにより決定で処分の効力、処分の執行または手続きの続行の全部または一部を停止します。しかし他方で(3)執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあること、または本案について理由がないとみえる場合は執行停止はできません。執行停止の決定は口頭弁論を経ずにすることが可能ですが、あらかじめ当事者の意見を聴く必要があります。執行停止は当事者である行政庁その他関係行政庁にも効力を及ぼします。なお執行停止の決定に対しては即時抗告ができます。
執行停止の取消と異議
執行停止の決定が出た場合でも、執行停止の理由がなくなった場合や、その他事情の変更があった場合、裁判所は行政庁側の申し立てにより決定で執行停止の決定を取り消すことができます。また執行停止の申し立てがあった場合でも、内閣総理大臣の異議があった場合は裁判所は執行停止の決定ができません(27条4項)。すでに執行停止の決定が出ている場合でも、内閣総理大臣の異議があれば取り消さなければならないとされております。裁判所の裁判に介入できる非常に強力な異議制度ですが、異議を述べるには内閣総理大臣は理由を付す必要があり、処分の続行をしなければ公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情をここで示すこととなります。
コメント
本件で福岡高裁は日本語学校側の申し立てを認め、処分の執行停止の決定をしました。同校には現在も留学生が在籍しておりここで日本語学校として認める告示の効力がなくなった場合、学校および在校生に重大な損害が生じると認められたものと考えられます。以上のように行政処分に対して抗告訴訟や不服申立てを行っても、それだけでは処分の効力は失われず、訴訟の進行とは関係なく執行が進みます。通常の民事訴訟のように仮処分も利用できないこととなっております。営業停止や許認可の取消などの処分がなされた場合には、それに対する訴訟だけでなく仮の救済についても迅速に対応していくことが重要と言えるでしょう。
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