プロ野球選手会が公取委に申立て、保留制度と独禁法
2024/07/24 コンプライアンス, 行政対応, 独禁法対応, 独占禁止法, エンターテイメント

はじめに
「日本プロ野球選手会」は23日、一つの球団が選手と契約交渉する権利を独占する保留制度が独禁法に違反するとして、公正取引委員会への申し立てを検討していると表明しました。今回はプロ野球での保留制度と独禁法について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、労組「プロ野球選手会」は23日、札幌市内で臨時大会を開き、メジャーリーグ選手会と相互協力の基本合意を締結したと発表しました。また現行の保留制度が選手の移籍を阻害し、独禁法に違反しているとして公取委に申し立てることを検討していることも明らかにしました。同会は日本野球機構(NPB)と協議を重ね、FA権の取得年数を高校出身選手が7年、それ以外の選手は6年とする案なども議論してきたとされ、会沢会長はゼロベースで考え直す発送も必要になるとしております。具体的な申し立て時期等については、まだ準備が整っていないとして明らかにはされておりません。
プロ野球と独禁法
日本におけるプロ野球は一般の企業などとは異なった独特の制度を有しております。そのためこれまでもその独自の風土がしばしば問題視されることもありました。独禁法との関係で問題点として指摘されてきたのは、選手が他の球団に移籍することやそれに向けて活動することを制限する保留制度、各球団が相談して新人選手の契約金の上限を設けること、球団が選手会議で交渉権を獲得しない限り当該選手と契約を締結することができないとするドラフト制度、新たな球団が参入する場合にオーナー会議の承認や加盟金の支払いが必要とされることがどが挙げられております。これらの制度については独禁法の不当な取引制限、不公正な取引方法などに抵触しないかが指摘されてきました。以下保留制度について具体的に見ていきます。
保留制度の問題点
NPBの保留制度とは、球団の保留名簿に記載され、球団が保留権を有する選手については、国内外を問わず、選手が他球団に移籍するための契約交渉や練習参加等も行うことができないとする制度です。この保留権は球団が保留権を行使すれば、現役中だけでなく、引退後も3年間はこの制限が継続するとされます。この保留制度の唯一の例外がFA制度と言われております。選手が自身の意思でFA権を行使した場合に限り、移籍するための契約交渉を行うことができるとされます。FA権の取得は145日以上の1軍登録が8シーズンに到達することとなっております。このプロ野球球団が他のプロ野球球団と共同して、選手と球団との自由な交渉という事業活動を拘束することにより、競争を実質的に制限として、独禁法が禁止する不当な取引制限に該当しうるとされます。
不当な取引制限の要件
独禁法2条6項によりますと、不当な取引制限とは、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、もしくは引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、または遂行することにより、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限することとされます。つまり意思の連絡と相互拘束、それにる競争制限効果が必要ということです。意思の連絡は黙示的なものも含まれます。一定の取引分野とは市場を意味し、原則として需要者から見た代替性の観点から画定されることとなります。そして競争の実質的制限とは、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって市場支配力を形成することといわれております(東京高裁昭和26年9月19日)。
コメント
本件で、現行の保留制度では、球団側が選手に対しFA以外での移籍や他球団との交渉を認めていないとされます。日本プロ野球選手会はこの契約期間が終わった後も選手の移籍を妨害する仕組みを選手側に一方的に課しており独禁法に違反するとしております。上記のようにプロ野球にはいくつか法的に問題が指摘されている制度が存在します。しかし一方で、プロ野球は戦力が拮抗したチームが複数必要であることや、円滑なリーグ運営には球団が相互に協力し合う必要性が高いことなどから公取委もこれらの点について独禁法の適用に消極的な姿勢を見せていたという背景があります。今後も保留制度などに対し排除措置命令等が出されるのかと言う点についてはあまり可能性は高くないのではないかと考えられます。以上のように独禁法では市場における競争を排除する様々な行為が禁止されております。今一度それらの要件などについて確認し周知することが重要と言えるでしょう。
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