運転手らを労使協定締結せずに時間外労働させた疑い、函館バスの社長らを略式起訴
2024/07/16 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 流通, 物流

はじめに
北海道のバス会社が労使協定を結ばず、一部の乗務員に時間外労働をさせていたとして、法人としての会社と、社長と常務の2人が労働基準法違反の罪で7月4日に略式起訴されていたことがわかりました。
労使協定結ばずに運転手ら残業させたか
労働基準法違反の罪で略式起訴されたのは、函館バス株式会社の社長(63)、専務取締役(44)の2人です。
労働基準法第36条では、労働者に時間外労働をさせる場合に、事業者に対し、労働者の過半数で組織する労働組合と協定(いわゆる「36協定」)を結ぶことを求めていますが、函館バスは、36協定を結ばずに労働者に時間外労働をさせていた疑いが持たれています。
函館バスの労働組合は、今年3月、今回の事案に関し会社を刑事告発。これを受けて、函館労働基準監督署は、「函館バスが2021年4月から2023年9月にかけて違法に時間外労働させた」として、書類送検していました。
そして、7月4日、函館地方検察庁は、「函館バスが2021年7月から10月にかけて、運転手などの従業員8人に対して36協定を結ばずに時間外労働をさせていた」として、法人としての会社と、社長と常務の2人を略式起訴しました。
なお、函館地方検察庁は、起訴内容に示された期間以外(2021年4月~6月、2021年11月~2023年9月の期間)については不起訴処分としていますが、理由については明らかにしていません。
労使協定について
今回の起訴に関し、函館バスの総務部長は、「事前協議では労働組合の合意が取れなかった」と説明しているとされています。ときに、刑事罰にも繋がりかねない、労使協定の未締結。
労使協定とは、使用者と労働組合または労働者の過半数代表者が締結する書面上の取り決めのことです。
労働条件に関する一定の制度を導入する場合などに、労働基準法や育児介護休業法などにより締結が義務付けられています。
また、労使協定の中には、労働基準監督署への届け出が必要なものもあり、これを怠った場合、罰則の対象となるため、届け出義務の有無を逐一確認することが重要となります。
届け出義務のある労使協定としては、
・使用者が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する場合(労働基準法18条2項)
・1年単位の変形労働時間制を導入する場合(就業規則に定めた場合は届け出不要。同法32条の4第1項)
・常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店の事業において、労働者を1日10時間まで労働させる場合(同法32条の5第1項)
・事業場外みなし労働時間制について、所定労働時間以外のみなし労働時間を定める場合(みなし労働時間が法定労働時間以内の場合は届け出不要。同法38条の2第2項)
・専門業務型裁量労働制を導入する場合(同法38条の3第1項)
などが挙げられますが、今回問題となった36協定(労働者に時間外労働または休日労働をさせる場合)も、これに含まれます。
特に、36協定については、労働基準監督署への届け出が効力要件となっているため、36協定が発効する前日までに届け出を行う必要があります。
もし、36協定の締結を怠った状態で、労働者に時間外労働や休日労働をさせた場合、使用者は法定労働時間に関する規制(労働基準法第32条)または休日付与の規制(同法35条)に違反することになります。
その場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあり(同法第119条第1号)、さらに、上記の各違反行為が会社の代理人または使用人その他の従業者によってなされた場合には、法人としての会社にも「30万円以下の罰金」が科されます(同法第121条第1項)。
コメント
函館バスと労働組合の間では、本件以外にも「組合業務などを理由とした再雇用拒否の適法性」をめぐって訴訟が行われていましたが、今年1月に最高裁判所が会社側の上告を退け、再雇用拒否の無効と未払い賃金の支払いを命じた二審札幌高裁判決が確定しています。
さらに、7月には、組合員2人に対し、「組合活動への報復として不当に遠隔地への配置転換を決め、異動に応じないことを理由に懲戒解雇を行った」として、組合側が函館地方法務局に人権侵犯の被害申し立てを行うと報じられています。
まさに、泥沼の様相を呈している、函館バスの労使問題。バス業界全体に目を移しても、慢性化する長時間労働や低賃金、人手不足などの問題が以前より取り沙汰されています。
長時間労働を改善すべく、改正労働基準法による時間外労働の上限規制や改善基準告示の改正による拘束時間の上限見直しなどが行われていますが、かえって、低賃金や人手不足を加速させるとの懸念もみられ、課題解決の見通しは、いまだ立っていない状況です。
新たな法律の規制を遵守するのはもちろんのこと、使用者と労働者間で改めて信頼関係を構築し、労使一体となって課題克服の道筋を探る必要がありそうです。
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