公取委が「コープさっぽろ」に勧告、不当減額とは
2024/05/24   コンプライアンス, 行政対応, 下請法

はじめに

 公正取引委員会は22日、食料品の製造などを委託している下請け27社への支払代金から総額約2537万円を不当に減額したのは下請法違反に当たるとして、生活協同組合「コープさっぽろ」(札幌市)に再発防止の勧告をしました。公取委からの勧告は2度目とのことです。今回は下請法の不当減額や買いたたきについて見直していきます。

 

事案の概要

 公取委の発表などによりますと、コープさっぽろは令和3年8月から令和6年4月にかけて、食料品の製造や商品配送を行う下請事業者へ支払う下請代金を、下請事業者に責任がないにもかかわらず不当に総額2537万4079円減額していたとされます。その際の名目は、「月次リベート」「システム利用料」「協賛金年契リベート」「達成割戻金」「支払通知作成料」とのことです。これらの行為は下請法が禁止する下請代金の減額に当たるとして、公取委は管理体制整備と周知徹底などを命じる勧告を出しました。なおコープさっぽろは減額分の下請代金については既に支払済とのことです。

 

下請法による規制

 下請法では一定の規模の事業者がその下請事業者と取引する際に一定の義務や禁止事項を定めております。これにより下請事業者の利益を保護し、下請取引の公正を確保しております。具体的には資本金3億円超の親事業者は資本金3億円以下の下請事業者に対して、資本金1000万円~3億円の親事業者は資本金1000万円の下請事業者に対して下請法の適用を受けます(2条1項~8項)。親事業者に課される義務としては、書面の交付義務(3条)、書類の作成・保存義務(5条)、下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)、遅延利息の支払義務(4条の2)が定められております。そして禁止事項として、受領拒否、代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが挙げられております(4条1項~2項各号)。違反に対しては公取委による勧告(7条)、書面交付などの義務違反に対しては罰則として50万円以下の罰金となっております(10条)。以下減額の禁止と買いたたきについて詳しく見ていきます。

 

下請代金の減額禁止

 下請法では、下請事業者に責任がないのに、発注時に定められた金額(発注時に直ちに交付しなければならない書面に記載された額)から一定額を減じて支払うことを全面的に禁止しております(4条1項3号)。これは値引きや協賛金、歩引きなどの名目や方法、金額の多寡を問わず、また下請事業者との合意があっても違反となるとされております。下請代金から差し引かなくても、減額分を別途協賛金などとして取り立てる場合や、下請代金の総額はそのままに、数量を増加させる場合も同様とされます。下請事業者との間で単価の引き下げの合意が成立した場合、その合意前に発注した分にまで遡及して新単価を適用した場合も減額に該当します。また下請事業者との合意がなければ、下請代金から銀行振込手数料を差し引くことも違法となります。消費税や地方消費税額相当分を支払わないことも同様とされます。

 

買いたたき

 買いたたきとは、下請代金の額を決定する際に、(1)発注した内容と同種または類似の給付の内容に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を、(2)不当に定めることを言うとされます(4条1項5号)。減額の場合は最初に定めた下請代金から減額するというものでしたが、買いたたきは最初の発注時に不当に低廉な価格を定めるというものです。「通常支払われる対価」とは、同じような取引の給付の内容について、その下請事業者の属する取引地域において、一般に支払われる対価のことを言うとされております。買いたたきに該当するかは、価格水準や下請事業者と十分に協議が行われたかなど、代金の決定方法などを総合的に勘案してケースバイケースで判断するとされております。実際に違法とされた事例として、景気の悪化に伴う親事業者の収益悪化を理由に代金引き下げによる協力を下請事業者に要請し、景気が回復した後も下請事業者からの協議の要請を無視して代金を据え置いたというものがあります。協議を尽くさず価格決定方法に不当性があるとのことです。

 

コメント

 本件でコープさっぽろは、下請事業者に対しリベートやシステム利用料などの名目で代金を差し引いていたとされます。公取委は不当な減額に当たるとして再発防止等を命じる勧告をしましたが、同生協は2012年にも同様の勧告を受けております。前回の勧告以降、組織としての確認体制が構築されず、現場まかせになっていたとのことです。以上のように下請事業者と締結した代金から不当に値引きする行為や、そもそも不当に低廉な価格で発注することは下請法で禁止されております。公取委の発表では、平成16年以降、下請法違反による勧告や公表がなされた事例のほとんどは減額によるものであったとされております。またこのような事態を受けて、公取委は下請事業者側が原価の上昇を受けて値上げを求めたにもかかわらず、要請を無視して価格を据え置く行為を下請法で明確化するなど、規制の強化を予定しており、来年の国会で法案を提出する見通しです。コスト削減の一貫として下請事業者への代金を一方的に減額していないか、今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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