今年秋施行予定、フリーランス新法とは
2024/04/24 契約法務, 労務法務, コンプライアンス, 民法・商法

はじめに
個人事業主などを保護する「フリーランス新法」が今年秋に施行される見通しです。下請法と異なり全ての企業、事業者を適用対象としております。今回は昨年可決成立したフリーランス新法の概要を見ていきます。
制定の経緯
近年、働き方の多様化が進みフリーランス、個人事業主といった労働者が急激に増加しました。一方でこのようなフリーランスが取引先企業との間で様々なトラブルを経験していることも明らかになってきました。令和3年の内閣官房による実態調査でもフリーランスの約4割が報酬の不払いや支払い遅延、記載が十分な発注書を受け取れないといったトラブルを経験しているとされております。1人の個人であるフリーランスと、組織である発注事業主との間には交渉力や情報収集力で格差が生じやすく取引上弱い立場にあることが主な要因であると言われております。そこでフリーランスと発注事業者との格差に着目し、両者間の取引の適正化と就業環境の整備を図り、最低限の規律を設けるフリーランス新法が2023年4月に可決成立しました。同年5月に公布されており、その1年6ヶ月以内に施行されます。
フリーランス新法の適用対象
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス新法)の適用対象である「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しない者を言うとされます(2条1項)。個人で働くフリーランスや個人事業主のことです。「特定受託業務従事者」とは、それら個人や法人である代表者を言うとされます(同2項)。「特定業務委託事業者」とはそのようなフリーランスに業務委託をする事業者であって、従業員を使用する者を言うとされております(同6項)。つまり従業員を使用する事業者が従業員を使用しない事業者に業務委託をする場合に適用される法律ということです。なおここで「業務委託」とは、事業者が事業のために他の事業者に物品の製造、情報青果物の作成または役務の提供を委託することとされます(同3項)。企業のフリーランスへの外注全般に適用があるということです。
フリーランス新法の規制内容
(1)取引の適正化
フリーランス新法では企業がフリーランスに業務委託をした場合、フリーランスへの委託物や報酬の額等を書面または電磁的方法により明示することが義務付けられます(3条)。これは企業だけでなくフリーランスがフリーランスに業務委託をする場合も同様とされております。そして委託物を受け取った日から60日以内(再委託の場合は30日以内)の報酬支払期日を設定して支払わなければならないとしております(4条)。また禁止事項として、①受託者側に帰責性が無い受領拒否、②受託者側に帰責性が無い報酬の減額、③受託者側に帰責性の無い返品、④通常相場に比べ著しく低い報酬額を不当に定めること、⑤正当な理由無く物品・役務の利用や購入強制、⑥経済上の利益を提供させること、⑦受託者側に帰責性が無い契約内容の変更ややり直しが規定されております(5条)。
(2)就業環境の整備
特定業務委託事業者、つまり企業側は広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容を保たなければならないとされます(12条)。またフリーランス側が育児介護等を両立して業務を行えるよう申し出に応じて必要な配慮をしなければならないとされております(13条)。フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応など必要な体制整備等の措置を講ずることも義務付けられます(14条)。さらに継続的業務委託を中途解除する場合には原則として中途解除日の30日前までに予告しなければならないとされます(16条)。
違反した場合
これらの義務や禁止事項などに違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官または厚生労働大臣は違反行為についての助言や指導、報告徴収、立入検査、勧告、公表、命令をすることができるとされております(8条、9条、11条、18条~20条、22条)。直接的な罰則は定められておりませんが、この命令に違反した場合や検査拒否などに対しては50万円以下の罰金と法人に対する両罰規定が置かれております(24条、25条)。また国はフリーランスの就業環境の整備のために相談対応などの必要な体制の整備等の措置を講ずることとなっております(21条)。
コメント
近年働き方改革の推進などによりいわゆるフリーランスや個人事業主が増加しており、企業から業務委託を受けて生計を立てる労働者が急増しております。しかし上でも触れたようにフリーランスは企業に比べ、組織力、情報力などが弱く圧倒的に不利な立場に置かれており、国の調査でも約4割がトラブルを経験しております。弱い立場の事業者を保護する下請法も適用対象は資本金1000万円を超える企業としており、資本金が1000万円までの企業は対象外となっております。そこでフリーランス新法では適用対象を全ての事業者とし、従業員の有無を基準としております。これによりこれまで下請法が適用されなかったフリーランスへの外注も規制対象となります。特に委託内容を記載した書面や電磁的記録の作成義務は重要で、一方的なキャンセルや減額をした場合、訴訟に発展することとなります。フリーランスへの外注を行っている場合は秋の施行までに取引状況などを見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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