物流業界でAIやドローンによる実証実験/2024年問題と労働法制
2024/03/19   労務法務, 労働法全般, 物流

はじめに

 深刻な人手不足が懸念される物流業界の「2024年問題」に対応すべく、AIやドローンでの点検作業などを行う実証実験が始まりました。実現すれば3割程度の点検業務の負担軽減になるとのことです。今回は間もなく始まる2024年問題について見直していきます。

 

2024年問題とは

 働き方改革関連法により順次施行されてきた時間外労働の上限規制が2024年4月から物流業界でも施行されます。これにより何も対策を講じなければ2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力が不足する可能性があると指摘されております。これがいわゆる「2024年問題」です。従来物流業界、特にトラックドライバーの労働環境は長時間労働が慢性化しており、また高齢化と若手不足、宅配便の取扱数の増加などもあり長時間労働が状態化していたとされます。そこで働き方改革ではこのような物流業界にも時間外労働の上限規制を及ぼし、トラックドライバーの労働環境を改善することが期待されておりました。しかし一方で、労働時間の減少により1日に運べる荷物の数が減少し、物流業界の利益の減少や労働者の収入減少にも繋がりかねないとも懸念されております。

 

時間外労働の上限規制

 これまでも何度も取り上げてきましたが、ここでも簡単に労基法の時間外労働の上限規制についておさらいしておきます。労基法では原則として労働時間は1日に8時間、週に40時間が法定労働時間となっております(32条1項、2項)。労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者と協定を締結することによってそれを超えた時間外労働をさせることが可能となります(36条 三六協定)。この三六協定を締結しても無制限で時間外労働をさせることができるわけではなく現在の労基法では上限が定められており、月45時間、年360時間が限界となります。臨時的な特別の事情があって労使で合意している場合は年720時間、複数月平均80時間、月100時間未満までとなります(36条5項)。

 

働き方改革関連法の施行

 上記のように時間外労働の上限は原則として最大が年720時間となっております。この規定は大企業については2019年4月1日に、中小企業については2020年4月1日に施行されました。しかし自動車運転業務など物流業界については上限が最大で年960時間となっており、施行も2024年4月1日とされております。これがいわゆる2024年問題です。また労基法では月60時間超の時間外労働については時間外割増賃金が25%から50%に引き上げられます(37条、138条)。この規定は大企業については2010年4月1日に施行されており、中小企業については昨年2023年4月1日に施行されました。年5日の年次有給休暇の取得義務付け(39条)については2019年4月1日に施行となっております。

 

2024年問題と「送料無料」

 2024年問題に関連して消費者庁では「送料無料」の表示の見直しを求めております。運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されるべきとの観点から「送料無料」表示をする際には送料の負担者を表示したり送料込の表示もするなど送料負担の仕組みが明確になるよう求められます。また誰が負担しているのかや販促手法でることなど「送料無料」表示を行う理由の表示や配送業者への運賃の支払いなど無料となる仕組みの説明なども望ましいとされます。このように昨今物流業界ではインターネット通販などの発展に伴い宅配荷物が大幅に増加しており、同時に「送料無料」表示が運送事業者の負担となっていると指摘されております。消費者庁では2024年問題を契機に消費者の意識改革を促し、適切に送料が転嫁されるよう取り組んでいるとのことです。

 

コメント

 働き方改革関連法の最後の規定である物流業界に関する時間外労働上限規定がまもなく施行となります。これによりトラックドライバーなど物流業界でも時間外労働が年960時間までとなります。これを受け物流業界ではこの2024年問題に対処するために本件のようにAIやドローンを活用したり、またトラック輸送の一部を鉄道貨物に切り替えるといった動きが出ております。かねてから長時間労働が状態化していると指摘されてきた物流業界のホワイト化を推進する動きではありますが、物流企業にとっては協定の見直しや勤怠管理の複雑化など、減収減益以外でも負担が予想されます。行政や専門家などに相談しつつ適切に準備していくことが重要と言えるでしょう。

 

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