公取委が日産に勧告、下請法の規制について
2024/03/11   契約法務, コンプライアンス, 下請法, 自動車

はじめに

 公正取引委員会が7日、下請け企業36社に支払う代金を不当に減額していたとして、日産自動車に再発防止などを求める勧告を行なっていたことがわかりました。減額総額30億円で過去最高額とのことです。今回は下請法の規制について見直していきます。

 


 

事案の概要

 報道などによりますと、日産自動車は2021年1月~23年4月にかけて、タイヤやホイールなどを製造する下請業者に対し、「割戻金」を名目に下請代金を減額していたとされます。対象となっている下請業者は36社で減額された総額は30億2367万円とのことです。公取委の発表では、今回の件よりもずっと以前から同様の減額行為が続けられており、通常の取引の延長線上のように位置づけられていたとされ、下請企業は従わざるを得ない状況であったとしております。なお減額分については1月31日に下請企業に支払いを済ませているとのことです。

 

下請法による規制

 下請法では資本金の額を基準に、一定の規模の事業者とそれに対応する規模の下請事業者との取引について規制を置いております。具体的には(1)物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託に関しては、資本金3億円超の親事業者の場合は資本金3億円以下の下請事業者が、資本金1000万円超3億円以下の親事業者の場合は資本金1000万円以下の下請事業者が対象となります。(2)上記以外の情報成果物作成・役務提供委託に関しては、資本金5000万円超の親事業者の場合は資本金5000万円以下の下請事業者が、資本金1000万円超5000万円以下の親事業者の場合は資本金1000万円以下の下請事業者が対象となります。

 

親事業者の義務と禁止事項

 上記基準に当てはまる親事業者にはいくつかの義務と禁止事項が規定されております。具体的には書面の交付義務(3条)、書類の作成・保存義務(5条)、下請代金の支払期日を定める義務(2条の2)、遅延利息の支払い義務(4条の2)を負います。そして4条各項各号では以下のような禁止事項を定めております。

(1)受領拒否(1項1号)

(2)下請代金の支払い遅延(同2号)

(3)下請代金の減額(同3号)

(4)返品(同4号)

(5)買いたたき(同5号)

(6)購入・利用強制(同6号)

(7)報復措置(同7号)

(8)有償支給原材料等の対価の早期決済(2項1号)

(9)割引困難な手形の交付(同2号)

(10)不当な経済上の利益の提供要請(同3号)

(11)不当な給付内容の変更・やり直し(同4号)

 

令和6年の違反事例

 令和6年に入ってから今現在で日産自動車の件も含め5件の違反事例が報告されております。株式会社メタルテックに対する勧告事例では日産自動車と同様に減額が問題となりました(令和6年1月23日)。自動車部品の製造委託代金から「屑費」の名目で減額していたとされます。サンデン株式会社の事例では、長期間発注する予定が無いにもかかわらず4220の金型を無償で保管させ、不当な経済上の利益提供要請が問題となりました(令和6年2月28日)。ダイオーロジスティクス株式会社の事例では下請事業者に自社の運送業務の利用を余儀なくさせ購入・利用強制が問題となりました(令和6年2月21日)。王子ネピア株式会社の事例では下請事業者に委託していたマスクの製造を一部取消し、仕入代金や運送料、倉庫保管料、廃棄料、人件費などを負担させ、不当な給付内容の変更および不当なやり直しが問題となりました(令和6年2月15日)

 

コメント

 本件で日産自動車は、決算期などにコストダウンの目標を達成する目的で下請事業者と協議し、割戻金の名目で下請代金を減額していたとされます。その際特に問題意識も違法性の意識もなく通常の取引の延長として状態化していたとのことです。過去2年間に36社に対して総額30億円あまりの減額が行われておりました。以上のように下請法では立場の弱い下請事業者を保護するため、親事業者には様々な義務と禁止事項が規定されております。上でも触れたように今年に入ってからだけでも減額以外に利用強制や契約内容の変更、経済上の利益提供要請など様々な違反事例が報告されております。いずれの例でも下請事業者は受け入れるしかなかったとしております。自社が下請事業者と取引している場合、それらの事業者に不当な要求をしていないか、コストカットを名目に減額を無理強いしていないかを今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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