損保4社が「ゼロ」宣言、政策保有株とは
2024/03/07 商事法務, 戦略法務, 会社法

はじめに
損害保険4社が金融庁に提出した業務改善計画書で、保有する政策保有株のすべてを売却する方針を打ち出していたことがわかりました。合計で6兆円を超えるとのことです。今回は政策保有株について見ていきます。

事案の概要
報道などによりますと、企業向けの保険料を損保各社が事前に調整していた問題で、金融庁は損保各社が保有する政策保有株の存在が適正な競争をゆがめていた一因であるとして各社に売却を迫っていたとされます。各社の有価証券報告書では、昨年3月末時点で政策保有株の総額は計6兆円を超えるとされ、金融庁に提出した業務改善計画書でそれらすべてを売却する方針であると明記したとのことです。MS&ADは2030年3月末、SOMPOは31年3月末までとそれぞれ期限も示したとされます。この動きを受け、保険業界の株価が大きく上昇しているとのことです。
政策保有株とは
政策保有株とは、企業が投資ではなく、取引先企業との関係維持や買収防衛といった経営戦略条の目的で保有する株式を言うとされます。一方的に株式を保有するだけでなく、相互に保有しあうことが多いと言われております。この政策保有株式は1960年代に旧財閥系企業グループから始まったとされ、90年代には上場株式の時価総額の3割を超えるほどにまで達したとされております。しかしバブル経済崩壊時の株価の大幅な下落で含み損が膨らみ、金融機関を中心に政策保有株を売却する動きが広がり、銀行等保有株式取得機構が政府手動で設立され、徐々に政策保有株は減少していったと言われております。また政策保有株はかねてから企業ガバナンスの低下や資本効率性の悪化などデメリットも指摘されており、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは政策保有株の保有目的や合理性の説明を義務付けております。また2019年3月期から有価証券報告書での保有銘柄の個別開示も厳格化しております。
政策保有株への規制
上でも触れたように東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードでは政策保有株式について次のように規定しております。上場会社が政策保有株式を保有する場合には、その減縮に関する方針・考え方など政策保有に関する方針を開示すべきとしております。また毎年取締役会で保有目的が適切か、便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを精査し、検証してその内容を開示すべきであるとし、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示しその基準に沿った対応を行うべきであるとしております(原則1‐4)。また有価証券報告書にも、(1)投資株式の区分の基準および考え方、(2)保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式について、保有方針と合理性を検証する方法と適否に関する取締役会の検証内容、銘柄数と貸借対照表計上額などを記載することとされております。
会社法上の規制
会社法には特に政策保有株式を規制する規定は現在のところ置かれておりませんが、株式の持ち合いについては一定の規制が用意されております。まず相互に株式を保有している場合において、相手会社に自社の株式を議決権で4分の1以上保有されている場合、または実質的に経営を支配される関係にある場合は相手会社の株主総会で議決権を行使することができません(会社法308条カッコ書き)。また子会社は原則として親会社の株式を取得することが禁止されております(135条1項)。例外的に、他の会社から事業の全部を譲り受けた際に親会社株を譲り受ける場合、吸収合併や吸収分割、新設分割などで親会社株を承継する場合は保有が認められておりますが(2項各号)、相当の時期にその保有する親会社株を処分しなければならないとされております(同3項)。
コメント
近年、東証が上場企業に対し政策保有株の減縮や資本コスト・株価を意識した経営の実現を要請したことを受け、上場会社での政策保有株を処分する動きが加速しております。昨年11月にはトヨタ自動車がデンソー株約2900億円分を売却すると発表し、NECや日立製作所がルネサスエレクトロニクス株をすべて売却すると発表しております。本件でも東京海上、MS&AD、SOMPOが合計6兆円を超える政策保有株をすべて売却する方針を業務改善計画書に明記しました。株式の持ち合いには互いに安定株主の形成や企業同士の関係強化、敵対的買収の予防など様々なメリットがありますが、同時にガバナンスの低下や資金の流動性の喪失、連鎖的な株価下落のリスクなど様々なデメリットも指摘されております。今後も株式の持ち合いに対する規制が加速していくことが予想されます。これらを踏まえ、自社のガバナンスや資本の健全化を様々な観点から模索していくことが重要と言えるでしょう。
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