広島空港の運営会社が減資へ、1億円税制について
2024/02/20   商事法務, 税務法務, 租税法, 会社法

はじめに

 広島空港を運営する広島国際空港(広島県三原市)が資本金を現在の92億5千万円から1億円に減資することが14日わかりました。税負担の軽減により財務体質の改善を図るとのことです。今回は資本金1億円税制について見直していきます。

 


 

事案の概要

 報道などによりますと、広島国際空港は2020年11月に三井不動産や広島銀行など16社が出資して設立された会社で、21年7月の同空港の完全民営化後の受け皿となり、滑走路やターミナルビルの運営を担っているとされます。しかし新型コロナウイルスの感染拡大による運行休止や減便、利用の低迷などによって経営は当初から赤字が続き、22年度の連結決算では最終損益が20億6千万円の赤字であったとのことです。同社は臨時株主総会を経て3月上旬に資本金を1億円に減資し、減額分の91億5千万円については資本準備金に振り替えるとしております。

 

資本金と外形標準課税

 資本金とは、会社を運営するにあたって元手となる資金で、会社設立時やその後の募集株式発行による出資によって増加します。この資本金は会社の規模を表す指標ともなりますが、近年この資本金を1億円以下に減資する動きが目立っております。日本の税制上、資本金が1億円以下である場合には中小企業、1億円を超える場合は大企業と扱われる、いわゆる「外形標準課税」を採用しております。資本金の額や従業員への給与総額によってその会社の規模を判断し、それにより税額などが決められているということです。そのため事業が赤字でも資本金が1億円を超えている以上、大企業として扱われ負担が大きくなるとされます。そこで多くの企業が資本金を1億円以下に減資して、資本準備金や資本剰余金に会計上振り替え、税負担の軽減を図っております。

 

減資のメリット・デメリット

 上記のように資本金が1億円以下の中小企業では税制面で多くのメリットがあります。具体的には、資本金が1億円を超える大企業の場合、繰越欠損金として所得から控除できる限度額が50%までに制限されますが、資本金が1億円以下の場合は100%控除が可能です。また法人税率も通常23.2%ですが、資本金が1億円以下の場合は年間800万円までの所得には軽減税率が適用され15%となります。また欠損金が生じた年度の前年度の所得から控除することもでき、前期の収めた法人税から欠損金相当の還付を受けられます。さらに年間800万円までの交際費が経費と認められたり、年間300万円を限度として取得時の価格が30万円未満の固定資産は当該年度に全額償却が可能です。一方で資本金は会社の規模を示し指標でもあることから、減資は投資家や金融機関などからの信用の低下を招くというデメリットがあります。また資本金減少は手続きが煩雑という点も無視できないと言えます。

 

資本金減少の手続き

 資本金減少の手続きではまず株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法447条、309条2項9号)。ただし定時株主総会で欠損填補をする場合は普通決議でよいとされます。また株式発行と同時に、それにより増加する資本金の額を下回らない範囲で減資する場合は取締役会決議または取締役の決定(取締役会非設置会社)でも可能です(447条3項)。資本金を減少する場合は必ず債権者異議手続きが必要です。減資がなされると剰余金配当など会社財産の散逸の危険が増加し、債権者にとって不利な状況を招くからです。具体的には官報での公告と知れている債権者への個別催告が必要です(449条)。そして株主総会等で決定した効力発生日に減資の効力が生じます。減少された分の資本金は資本準備金か資本剰余金に振り替えられることとなります。

 

コメント

 本件で広島空港の民営化に伴い、受け皿となっていた広島国際空港は新型コロナウイルスの影響等で利用客が低迷し、赤字経営が続いていたものの、約92億円と、その収益率に不釣り合いに高額な資本金が計上されておりました。そこで税制上の負担軽減を図るべく1億円に減資する予定とされます。近年このように1億円に減資することによって財務体質の改善を図る企業が増加しており、資本金が1億円となっている企業がこの15年間で4000社増加したと言われております。一方でこのような動きを税逃れと指摘する声もあり、総務省の有識者検討会では外形標準課税の適用基準をこれまでの資本金1億円超に加え、資本金と資本剰余金の合計額で判断すべきとする案を出しております。このような当局の動きなどを注視しつつ、制度のメリット・デメリットを踏まえて慎重に検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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