山梨県身延町、「空飛ぶバイク」開発のA.L.I.Technologiesを賃料未払いで提訴へ
2024/01/22 債権回収・与信管理, 訴訟対応, 破産法

はじめに
次世代モビリティとして、世界中から注目を集めていた「空飛ぶバイク」。ドローンと同じ仕組みで、人が乗って最高時速100キロで40分間飛行できるとされており、国内一般向けにも一台7700万円ほどで販売されていました。その「空飛ぶバイク」の開発会社に対し、同社が開発拠点を置く山梨県身延町が未払い賃料の支払いなどを求める訴訟を提起する方針であることがわかりました。
賃料未払いのうえ、連絡取れず
報道などによりますと、身延町は都内のスタートアップ企業・株式会社A.L.I. Technologiesとの間で、2022年5月から2025年4月までの3年間、廃校となった中学校の校舎および約2ヘクタールの町有地を、ホバーバイクの開発や製造の拠点として貸し渡す契約を締結していたといいます。
賃料は年間一括払いと取り決めてましたが、2022年度分の賃料は支払われた一方、2023年度分の請求書を昨年10月に郵送した際、そのまま返送されてきたということです。その後、電話やメールで連絡をしても通じず、11月に身延町の職員が本社を訪ねてみたところ、既に引き払われていたといいます。未払いとなっている今年度分の賃料は約220万円で、現在も会社とは連絡が取れていないとのことです。
町は賃料や使用料の支払い・明け渡し・賃貸借契約の解除・実験スペースの使用許可取り消しなどを求めて、今月中にも提訴する方針だということです。
A.L.I. Technologiesはどんな会社?
A.L.I. Technologiesは、東京大学で航空宇宙を研究する学生が中心となって設立したスタートアップで、現在は株式の100%を米株式市場ナスダック(NASDAQ)上場企業であるAERWINS Technologies Inc.が保有しています。
産業用ドローン技術の開発やホバーバイクなどのエアーモビリティー分野で広く知られた存在で、山梨県とは2021年10月に次世代モビリティーの普及促進に関する協定を締結していました。
有望なスタートアップとして周囲の期待を集めていたA.L.I. Technologies。しかし、研究開発投資がかさみ、資金難に陥っていたといいます。報道等によると、昨年6月以降、取引先への代金未払いや従業員給与の未払いなどが続いており、段階的にリストラを進めていたとのことです。2023年7月31日には労働基準監督署から給与未払いを解消するよう是正勧告を受けています。
そして、2023年12月27日、A.L.I. Technologiesは東京地方裁判所に破産を申請。今月10日、破産開始決定を受けています。負債総額は11億6751万円に上るといいます。
取引先が倒産したら
A.L.I. Technologiesの本社には、同社の取引先と名乗る人が状況確認のため訪ねて来ていたという報道もあります。突然の倒産に困惑した企業が少なくなかったことが伺えます。
東京商工リサーチの発表によると、2023年の全国倒産件数は前年比35%増の8,690件。2年連続の増加となり、2015年以来の高水準となったといいます。
取引先が倒産した際のリスクとして、売掛金の回収が不能になることが挙げられます。取引先が倒産し法的整理を開始したときには、個別に売掛金を回収することは原則禁止されています(破産法42条1項等)。
そのため、取引先の倒産に伴う連鎖倒産のリスクが出てくるため、取引先の倒産がわかったらすぐに情報収集を開始し素早く対応を行うことが大切です。
具体的に取るべき行動としては、以下が挙げられます。
(1)納品予定の商品の確認
売買代金の回収はほぼ不可能となるため、倒産した取引先に対しての納品を取りやめる必要があります。仮に、既に商品などを納品済みの場合には、それらを引き上げることで売掛金回収が可能となります。
(2)自社の所有物の有無を確認、回収
自社の書類など所有物を預けている場合、返還を求めることができます。一方で、取引先のものなのか自社のものなのか、混同するとわからなくなるものについては、急ぎ弁護士などに相談し自社のものである証拠を見せて返還してもらいます。
(3)相殺を利用
当事者間で相互に債権を保有している場合に、双方の債権を同じ金額分だけ共に消滅可能とする制度です。取引先が破産手続きを開始していたとしても、倒産前から債務を有していたときには、相殺することで債権回収を実行できます(破産法67条、103条等)。
(4)担保権
破産手続開始決定があっても、原則、債権者の担保権は制限されずに行使可能です。破産法上債権者の担保権は別除権と呼ばれ、一般債権より債権回収が優先されます。ただ、他の債権者が同様に担保権を設定している場合には、担保権を実行しても、売掛金の回収には及ばない可能性があります。
このほかにも、債権譲渡などさまざまな対応が考えられます。
コメント
東京モーターショー2019に出品されるなど、世間の注目を集めていた「空飛ぶバイク」。経営難に陥った後に出資話もあったそうですが、米国親会社のAERWINSの役員が株式の希薄化を懸念し難色を示したことで、出資が実現しなかったといいます。結果、取引先への代金未払いに賃料未払い、従業員への賃金未払いなどを引き起こした末、破産開始決定を受けてしまいました。
資力のない取引先からの債権回収は大きな困難を伴います。今後、身延町が提訴した際にどのように裁判が進んでいくのか、仮に勝訴したとして、どのように執行手続きを進めるのか要注目です。
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奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
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