大阪地裁が「棋譜」を「公表された客観的事実」と判断、著作権該当性について
2024/01/18   知財・ライセンス, 著作権法

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はじめに


将棋の対局を実況中継しながら棋譜を再現する動画を配信していた男性が、放送事業者に動画を削除されたのは不当だとして約338万円の損害賠償を求めた訴訟で16日、大阪地裁が約118万円の支払いを命じていたことがわかりました。著作権侵害に当たらないとのことです。今回は著作物について見直していきます。

事案の概要


報道などによりますと、原告の男性は2020年9月~23年1月、放送事業者「囲碁将棋チャンネル」が配信する将棋の実況中継を基に、自信が作成した盤面に指し手を表示する動画をユーチューブなどで配信していたとされます。これに対し同社は著作権侵害を理由に削除を要請し、配信が一時停止されていたとのことです。男性は著作権侵害には当たらないとして、配信の削除を要請した同社に対し約338万円の損害賠償などを求め大阪地裁に提訴しておりました。同社は男性の行為について著作権侵害に当たらないことを認めつつ、「タダ乗りで情報を利用された」などと反論していたとされます。

著作物と著作権


著作権は著作者が著作物を創作した時点から発生します(著作権法51条1項)。そして諸作者の死後70年を経過するまで存続するとされております(同2項)。著作者が取得する著作権は大きく、財産権としての著作権と、著作人格権に分けられます(17条1項)。財産権としての著作権には、複製権、上演権、上映権、公衆送信権、公の伝達権、口述権、展示権、譲渡権、貸与権、頒布権や二次創作権などが含まれます(21条~28条)。そして著作人格権として公表権や氏名表示権、同一性保持権が含まれております(19条~20条)。このように著作権は様々な権利の複合体となっており、著作権侵害に対しては差止請求(112条)や損害賠償請求(114条)、不当利得返還請求、名誉回復等の措置請求(115条)などを行うことができ、また罰則として10年以下の懲役または1000万円以下の罰金が規定されております(119条)。また法人に対しても3億円の罰金となっております(124条)。

著作物とは


それではこのような著作権を生じさせる著作物とはどのようなものなのでしょうか。著作権法2条1項1号によりますと、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされております。ここには「思想又は感情」「創作的」「表現したもの」「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」という4つの要素が挙げられております。「富士山の標高は3776m」といった単なる客観的な事実やデータは思想又は感情に該当せず、他人の作品の模倣品や誰が表現しても同じようなものになるといったありふれたものも創作的に該当しないこととなります。また文章などになっていない単なるアイデアでは表現したものと言えないとされます。そして工業製品は文芸や学術、美術または音楽の範囲に属しないものとされております。

著作物に関する裁判例


著作物性が認められた例として、住宅地図と写真が挙げられます。株式会社ゼンリンが作成したゼンリン住宅地図に著作物性が認められるかが問題となり、裁判所は地図に関する著作物該当性の判断基準として、記載すべき情報の取捨選択およびその表示の方法を総合して判断すべきとしました。その上で住宅地図は調査員が現地を訪れて形状等を把握し、情報を書き加え、またイラストなどで施設を分かりやすく表示し、情報を取捨選択しているとして著作物性を認めました(東京地裁令和4年5月27日)。そして写真については、構図や光線、背景等に何らかの独自性が表れることが多く、結果として得られた写真の表現自体に独自性が表れ、創作性を肯定し得るとしております(知財高裁平成18年3月29日)。一方で新聞の見出しや学位論文の図表、タコの形状をした公園の滑り台などについては否定されております(東京地裁令和3年4月28日等)。

コメント


本件で男性ユーチューバーは囲碁将棋チャンネルで配信された王将戦などの棋譜を再現した動画を配信したところ、著作権侵害などを理由に同社によって一時動画が削除されたとされます。大阪地裁は棋譜について、「公表された客観的事実。自由に利用できる情報」とし著作権侵害を否定しました。プロ棋士がどのように将棋を指したかという情報は単なる事実であり「思想又は感情」に該当しないと判断されたものと考えられます。以上のように著作権は著作権法で手厚く保護されておりますが、保護の対象となる著作物に該当するかはかなり微妙な判断を要します。著作物に該当しない場合であっても、意匠や商標権などの他の知的財産権侵害に該当する場合や、別途不正競争防止法に抵触することもあり得ます。それぞれの要件や手続を今一度見直して周知しておくことが重要と言えるでしょう。

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