東映元社員、セクハラと過重労働による精神疾患で会社に損害賠償請求訴訟
2023/12/26 労務法務, 訴訟対応, 労働法全般, エンターテイメント
はじめに
映画の制作・配給で知られる東映の元社員の女性が、男性スタッフのセクハラや長時間労働により適応障害を発症したなどとして、12月14日、東映に対し損害賠償請求訴訟を提起しました。
今回の事案では、セクハラによる一次被害のみならず、被害の相談を受けた担当者の対応の悪さが事態をさらに悪化させたといいます。
会社に被害相談も「モテてよかった」
報道などによりますと、訴えを起こした元社員の女性(20代)は、2019年4月に東映に正社員として入社後、テレビ企画制作部に配属。ドラマや特撮などのアシスタントプロデューサーとして勤務していたということです。
ところが、2019年から2020年にかけて、ドラマ制作の現場で、フリーランスの男性スタッフから「会いたい」などと頻繁に連絡が来たり、手袋の上から手を握られることがあったといいます。さらに、この男性スタッフ以外からも、「彼氏はいるのか」と質問をされたり、肩を触られたりしたとのことで、不快に感じた女性は会社側にセクハラを受けていると相談していました。
しかし、相談を受けた監査担当の社員からは「常習犯だから気にする必要はない」と返答されたほか、モテてよかったといった趣旨の発言もあったということです。
その後、女性は別の制作現場に異動となりましたが、異動先での長時間労働(最長で月間120時間以上の時間外労働)も重なり、適応障害を発症。2022年10月に東映を退社することになりました。
女性は、セクハラのほか時間外労働の賃金未払いがあったとして、労働基準監督署に通報。労働基準監督署から是正勧告が出され、女性が主張した未払い賃金・過重労働が認められる結果となりました。また、弁護士による調査を経て、東映側もセクハラを認定。2022年12月に女性に謝罪を行っています。
しかし、女性側は、東映が未払い賃金の支払い額を算定する際、女性に対してのみ残業代支払いの計算方法を変えるなど不誠実な対応に終始したとして提訴を決意。セクハラや長時間労働について、適切な対応を取らなかった安全配慮義務違反を指摘しています。なお、女性側は慰謝料のほかに、未払い賃金の支払いを求めています。
セクハラ被害の相談対応について
セクハラを行った男性スタッフはもとより、被害の相談を受けた会社側の対応にも大きな問題があった今回の事案。
それでは、会社は従業員からセクハラの相談を受けた際、どのような対応をとることが望ましいのでしょうか。
(1)プライバシーの確保
まず、被害者から話を聞く際にはプライバシーを十分に尊重し、他の従業員に聞かれないようにすること、相談を受ける担当者と被害者が話しているところを他の従業員らに見られないようにする配慮が大切です。
(2)情報管理の徹底
被害者からヒアリングした情報については、被害者の同意が得られるまで共有は許されません。内容が漏れないよう情報管理にも注意が必要です。
(3)寄り添ったヒアリング
ヒアリングの際には、被害者に対して否定的な言葉をかけたり、加害者側の話を聞く前にセクハラを断定するような言い方をすることも避けることが重要です。そして被害者が今後どういった対応を会社に求めているのかもしっかりヒアリングしましょう。
(4)被害者の要望を踏まえた対応
ヒアリング後、社内調査や加害者側からのヒアリングを行い、事実確認を丁寧に行います。一連の調査でセクハラが認められた場合、被害者の考えや希望を踏まえつつ、部署異動による被害者と加害者の隔離、相談窓口の設置などを検討していく形となります。
(5)加害者の処分
セクハラの事実が認められた場合、加害者に対する懲戒処分を検討する必要があります。セクハラは主に、以下の3つの類型に分類されますが、
・性的発言
・身体的接触(暴行・脅迫によらない)
・身体的接触(暴行・脅迫による)
問題となったセクハラがいずれの類型に該当するのか、その悪質性を踏まえつつ、就業規則に照らしながら、戒告・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇といった処分を決定しなければなりません。
コメント
女性は、法廷での闘いを選んだ理由として、東映と個人の力関係の差の大きさを挙げ、後輩たちが同じような苦境に立たされないようにするため、自分が声を上げて抑止力になりたいと語っています。
セクハラ被害を受けて心に傷を負ったのに、会社が守ってくれない。その絶望は、場合によってはセクハラそのものよりも重く被害者にのしかかる可能性があります。
セクハラは発生の予想が難しく、多くの場合、密室空間で起こることから、証拠や第三者からの証言を集めにくい性質があります。
会社において、セクハラ発生後に適切な対応をとることはもちろんのこと、セクハラが起こらないよう防止策を講じることが求められています。
男女雇用機会均等法第11条1項では、事業主に対し、職場におけるセクハラ防止措置を義務付けており、厚生労働大臣の指針により10項目が定められています。
法務としても、自社のセクハラ防止策がどのような状況にあるのか、改めて確認しておく必要がありそうです。
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