フリーカメラマンに労災認定、裁判例から見る労働者性
2023/11/21   契約法務, 労務法務, 労働法全般

はじめに

 勤務中の交通事故で負傷したフリーランスの男性カメラマン(40)に対し、品川労基署が労災認定していたことがわかりました。会社の指揮命令下で働く労働者と変わらないとのことです。今回は労働法の適用がある労働者性について裁判例から見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、今回労災認定がなされた男性は2020年から都内の広告写真関連会社と業務委託契約を結んで働いていたとされます。男性は昨年7月、車で撮影現場に向かう途中、高速道路で渋滞に巻き込まれた時にトラックによる追突事故にあい、頚椎捻挫や左足の指を骨折するなどの怪我を負ったとのことです。男性は会社がシフト表を作り、スケジュール管理をするなど事実上の雇用に当たるとし、品川労基署に労災申請を行っていたとされます。なお会社側は不服な点があるとして労災保険料などの支払いを拒否しているとのことです。

 

労働者該当性と労働法規

 近年働き方の多様化に伴い、フリーランスや業務委託、請負契約など雇用契約以外の形態による労働者が増加しております。しかし一方で実質的には会社に雇用された労働者と変わらないにもかかわらず、形式的な契約の文言が雇用でないとして労働関係法令の適用を回避するといった弊害も散見されております。これまでも何度も取り上げてきた「労働者性」についてここでも簡単に触れておきます。労基法などの労働関係法令上、労働者に該当するかは大きく、(1)会社の指揮命令下の労働であるか、(2)報酬の労務対償性、(3)事業者性の有無で判断されます。仕事の以来に対する諾否の自由の有無、業務の内容や遂行方法に対する決定権、通常予定されている業務以外の業務に従事する可能性、時間的・場所的拘束性の有無、当人に代わって他の者が労務の提供することができるかなどで指揮命令下にあるかが判断されます。そして報酬が時間給の性質を有している場合は労務対償性が認められます。逆に使用される器具などを自ら所有している場合や報酬額が従業員よりも相当高額である場合は事業者性が高く労働者性は否定される方向に働きます。

 

労働者性に関する裁判例

(1)業務委託契約と労働者性

 業務委託契約の労働者該当性が問題となった事例として、予備校と業務委託契約を締結し授業を行っていた講師の例が挙げられます。この例では当初「雇用契約書」での契約を締結していたところ、後から「業務委託契約」に転換されたとされます。また予備校の方針に従い、忠実に業務を行う旨、違反した場合には相応の処分に従う旨の確認書を提出させていたことや、個別の業務の範囲を超える命令を行っていたこと、個別の業務と関連が乏しい賞与を半年ごとに支払っていたことなどから予備校の指揮命令下での労務提供であると判断されました(東京地裁令和5年2月3日)。途中から業務委託契約に転換したことについても主として予備校側の利益を図る目的が推認されるとしております。

(2)業務委託から固定報酬となった例

 当初広告会社が原告にコピーライティングの業務委託していたところ、翌年から固定報酬として月額43万円を支払い、本来の業務以外にも窓口業務や全社員が出席する定例会への出席が求められるようになった事例でも労働者該当性が争点となりました。この例ではコピーライティング業務それ自体については会社から具体的な指示はあまりなかったものの、業務の諾否の自由はなく、他の社員と同様に週5日で8時間以上稼働し、タイムカードも打刻され、定例会への出席も求められるなど時間的場所的拘束も強く、固定報酬は一定時間の労働への対価としての性質が強いとして労働者性を認めました(東京地裁令和2年3月25日)。

(3)フランチャイズ契約と労働者性

 一方で労働者性が否定された例としてコンビニエンスストアのフランチャイズ契約を締結していたオーナー事例が挙げられます。この事例でオーナー側は情報システムにより本部から仕入先や仕入商品の種類と数などが把握され、事実上強制されており、店舗経営相談員が店舗事務所に立ち入って監督するなど業務遂行上の指揮監督を受けていたと主張しました。しかしオーナー個人で多種多様な商品を安定的に仕入れたり、数量などを判断することは困難で、本部に対価を支払ってもそれらのシステムを受けるメリットがあり、それに従わざるを得ない事情があったとしてもオーナーじ事業者性を否定するものではないとしました(東京地裁平成30年11月21日)。フランチャイズのオーナーは高い事業者性があり、一定の監督を受けていても労働者性が認められるには至っていないということです。

 

コメント

 本件でフリーランスのカメラマンは現場での撮影自体には裁量があったものの、週5日就業し、繁忙期には月200時間働くこともあったとされます。また会社側がシフトを作成し会社がアプリで複数のカメラマンのスケジュールを管理していたとのことです。品川労基署は会社の指揮命令下で働く労働者と変わらないとし労災認定されました。以上のように近年では業務委託や請負、フリーランスなど形式上は会社と独立しているものの、その実態は従業員と変わらない事例が多く、労働者性が認められる例が増加しております。特に当初は雇用契約であったものの、途中から業務委託契約に切り替えるといった場合では多くの例で労働者性が肯定されております。業務委託契約を締結している場合は会社の指揮命令下に置いていいないか、報酬が労務の対価となっていないかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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