NHKが割増金で初の提訴、改正放送法の割増金制度
2023/11/07   契約法務, 債権回収・与信管理

はじめに

 NHKは6日、東京都内の3世帯について、放送受信契約の締結と受信料・割増金の支払を求める訴訟を提起したと発表しました。割増金を求め提訴するのは初とのことです。今回は改正放送法の割増金について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、NHKは都内3世帯に契約締結を求める文書の送付や電話・訪問などで説明を重ねたものの、応じられなかったことから東京簡易裁判所に提訴したとされます。国会の付帯決議では割増金について、理解を得るための最大限の努力をしつつ、個別事情に配慮し適切な対応を行うこととされており、NHKは今後も一律に請求するのではなく、個別事情を総合勘案しながら運用するとしております。今回は誠心誠意の説明を行ってきたが、どうしても契約に応じてもらえなかったため、やむなく提訴に至ったとし、今後も公平負担の実現に向けて取り組みとのことです。

 

放送法の受信契約締結義務

 放送法64条1項では、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は協会とその放送の受信について契約しなければならない」と規定されております。ただし「放送の受信を目的としない受信設備…のみを設置した者については、この限りではない」とされており例外があるようにも見えます。この例外についてはこれまでに、ワンセグ機能付携帯、ワンセグ機能付カーナビ、NHKだけ受信できないテレビについて契約義務の有無が争われました。裁判所はこれらいずれについても例外には該当せず契約が必要との判決を出しております(最判平成31年3月、東京地裁令和元年5月、東京高裁令和3年4月)。またあらかじめテレビが設置されていた賃貸住宅での契約義務者は賃貸会社か賃借人かが争われた事例では、最高裁は賃借人としつつ、各部屋にテレビが設置されたホテルでは宿泊客ではなくホテル側としております(裁決平成30年8月29日、裁決令和元年7月26日)。なお本条文が財産権や契約自由の原則を侵害し違憲ではないかが争われましたが、最高裁は合憲としております(最判平成29年12月6日)。

 

改正放送法の割増金制度

 改正放送法64条3項4号では、「不正な手段により受信料の支払を免れた場合(イ)」「正当な理由がなくて第二号に規定する期限までに受信契約の申込みをしなかった場合(ロ)」の割増金の徴収に関してその額を協会が定め、総務大臣の認可を受ける旨が定められております。そして日本放送協会放送受信規約12条では、「放送受信料の支払いについて不正があったとき」「放送受信料の免除の事由が消滅したにもかかわらず、その届け出をしなかったとき」は所定の受信料とその2倍の割増金を支払わなくてはならないとしております。正当な理由がなく期限までに受信契約の申込みをしなかった場合も同様です。なお割増金の対象となるのは2023年4月以降の期間分の受信料となります。

 

割増金に関するその他の注意点

 NHKの公式サイトによりますと、上記の「正当な理由」とは、非常災害や急な疾病・事故等で受信契約書を期限までに提出することが著しく困難だったことが客観的に認められる場合などとされております。そして具体的な申込期限は、「受信機の設置の月の翌々月の末日」までとされており、たとえば4月に設置した場合は6月末日までに受信契約の申込をする必要があります。またすでに地上契約を締結しており、新たに衛生受信機を設置した場合でも同様とされます。NHKは割増金制度の運用について、文書・電話・訪問など様々なアプローチを通じて、受信料制度の意義や公共放送の役割を定年に説明し、割増金の対象となる事由に該当するか、割増金の請求を行うかを個別に判断して、恣意的に制度を運用していると受け取られないよう留意していくとしております。

 

コメント

 本件でNHKは都内3世帯に文書の送付や訪問などで契約を促してきたものの応じてもらえなかったとして東京簡易裁判所に契約締結と受信料・割増金の支払いを求め提訴しました。受信料については契約時にさかのぼって支払う必要がありますが、割増金は4月以降の未払い分についてのみとなります。割増金制度の運用が開始して半年、今回が最初の請求とのことです。以上のように受信料の適正かつ公平な負担を図ることを目的に、昨年10月施行の改正法で割増金制度が導入されております。これまでも受信契約については多くの訴訟が提起されてきており、企業も当事者となっております。放送法の規定や、裁判例、NHKの規約などを今一度確認し、対応していくことが重要と言えるでしょう。

 

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