ブッキング・ドットコムの宿泊料未払いは横領、施設側が損害賠償求め集団提訴
2023/10/24   契約法務, 訴訟対応, 民法・商法, 民事訴訟法, IT

はじめに


10月20日、宿泊予約サイト大手の「ブッキング・ドットコム」が、宿泊施設のオーナーらから集団訴訟を提起されました。サイト利用客の払った宿泊料金が7月以降、施設側に入金されていないといいます。

 

今年7月から未入金に


ブッキングドットコムはオランダ・アムステルダムに法人登記し本社を置いている会社です。宿泊施設のオンライン予約サービスの運営などを行っており、日本法人であるブッキングドットコムジャパンをはじめ、世界各地にグループ会社を配置し、業務支援にあたらせています。
サービスは43言語に対応し、登録リスティング数は2,800万件以上(そのうち660万件以上が旅館や民泊などの宿泊施設)と、今や世界最大級の宿泊予約サイトとなっています。
日本においても、日本語ウェブサイトが2005年に開設され、外資系のOTA(オンライントラベルエージェント)が運営する日本語ウェブサイトとして最古参に位置しています。

ブッキングドットコムでは、サイトと契約した宿泊施設は、予約客がサイトを通じて前払いした料金を受け取れる仕組みとなっていましたが、今年の6月に実施したシステム更新後、支払い予定日を過ぎても入金が行われない事態が相次いでいたといいます。
その結果、資金繰りの悪化により、従業員への給与や取引先への代金の支払いに支障をきたす宿泊施設も出ており、資金確保のために宿泊施設自体を売ったオーナーもいたということです。

報道などによりますと、宿泊施設側は支払いの催促を行ったものの、対応した日本法人・ブッキングドットコムジャパンは「オランダの本社にしか分からず、今、問い合わせている」といった回答を繰り返すばかりで、支払遅延は一向に解消されなかったといいます。

そこで、10月20日、宿泊施設側は未払いの宿泊料金の支払いを求め、ブッキングドットコムおよびブッキングドットコムジャパンを東京地方裁判所に集団提訴するに至りました。訴えを提起したのは、東京・大阪・沖縄をはじめとする8都府県にあるホテルや旅館など11の宿泊施設のオーナー10人です。請求額は、1社あたり約10万円から約1600万円の計約3600万円にのぼるとされています。

同日、ブッキングドットコムはホームページ上で状況を説明するリリースを出しました。概要は以下となります。

・オンライン取引の安全性を高いレベルで担保するため、新たな金融・決済プラットフォームへ移行する必要があった。
・今回、そのために必要なシステム更新を行ったが、その影響で宿泊施設への支払いに遅延が生じた。
・宿泊施設への支払いはすでに再開されたものの、予期せぬ技術的な問題が発生したため、一部にはまだ遅れが生じている。

一部報道に関して(Booking.com)

この問題に関し、観光庁も8月22日にブッキングドットコムに対し、宿泊施設側に対する丁寧な状況説明と迅速な対応を指示。しかし、その後も支払い遅延の状況が続いていたことから、今月11日に改めて当該指示への対応を求めたといいます。

国土交通省が行った調査によると、7月に発生したブッキングドットコムのシステムメンテナンスの不具合により、取引のある全世界の宿泊事業者への送金がストップ。8月16日からシステムが復旧し、全ての取引相手への送金操作を済ませたものの、一部で国際送金の際の金融機関同士の情報連携上のトラブル等が発生し、一部の宿泊施設に対し未着金の状況が続いているとのことです。

斉藤大臣会見要旨(国土交通省)

 

訴訟には国際裁判管轄の問題が


度重なる支払催促の末に提起された今回の訴訟。報道などによりますと、ブッキングドットコムと宿泊施設側が締結した契約書上、準拠法はオランダと定められており、紛争時の国際裁判管轄もオランダ・アムステルダムの管轄裁判所に専属的に服すると取り決められていたといいます。
そのため、契約上の債務不履行に基づき、東京地方裁判所に訴訟提起した場合、管轄が存在しないという理由で、訴えが却下されるおそれがありました。

そこで、原告側は、契約上の債務不履行(契約上、履行すべき義務を怠った)ではなく、ブッキングドットコム側の「不法行為(故意または過失により他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為)」を理由に損害賠償請求を行ったといいます。宿泊施設への後日の支払いを前提に預かった宿泊料金を支払うことなく不法に領得するのは“横領”という不法行為にあたるという構成です。

 

コメント


他の旅行ECサイトの追随を許さない圧倒的な集客力で、特に海外からの訪日客の呼び込みに力を発揮していたブッキングドットコム。宿泊施設によっては、かなりサイトに経営面で依存していたところもあるといいます。

国境を越えてのサービス提供が可能なインターネットサービスですが、普段使っているサービスの運営会社は、実は海外に本社を置く会社だったというケースも増えてきました。

一方で、今回のように、トラブル発生時の対応という面で、いささか不安を覚える面もあります。原告らは、訴訟提起前に日本法人であるブッキングドットコムジャパンの社長らと面会したそうですが、日本法人には何の権限もないことがわかっただけで、中身のない話し合いに終始したといいます。
会社として、海外の運営会社が提供するインターネットサービスを利用する際は、「紛争解決に時間を要するリスク」があることを十分念頭に入れたうえで利用する必要がありそうです。

 

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