イケアで初の労組結成、着替え時間の労働時間性について
2023/10/23 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, 小売
はじめに
家具小売大手「イケア・ジャパン」(千葉県船橋市)が制服への着替え時間について賃金を支払っていなかった問題で、同社で初めて労働組合が結成されたことがわかりました。過去にさかのぼって未払い分を求めるとのことです。今回は着替え時間の労働時間該当性について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、イケアは2006年の創業以来、着替え時間については賃金をしはらっていなかったところ、今年9月1日から着替え時間を一律5分とし、1日10分を労働時間に含めるとする社内ルールの変更を行ったとされます。しかし過去の分については労基署から違法性が指摘されていないとして支払わない方針とのことです。それを受け、東京管理職ユニオンの支部としてイケア内に初の労働組合である「IKEA
Japan
Union」が結成されました。同労組は、着替え時間を労働時間としたのなら、過去にさかのぼって不払い分を支払うべきとしております。
労基法上の労働時間
労基法では、労働者に休憩時間を除き、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならないと定めており(32条)、これを超えて労働させるためには労使協定が必要であったり(36条)、割増賃金の支払いが必要となってきます(37条1項)。そのため労基法上の「労働時間」に該当するかの判断基準が必要となってきます。一般的に労働時間に該当するかは、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかで判断されると言われております。形式的に就業規則や労働契約、労働協約等で労働時間に含まれないと定めていても、客観的に使用者の指揮命令下にあると認められる場合は労働時間に該当するということです。そしてこれは使用者の明示の指示や命令によらずとも、黙示的な場合であっても認められる場合があるとされております(大阪高裁平成13年6月28日)。
労働時間該当性に関する裁判例
労働時間に該当するかが問題となった事例として、作業服への着替えや業務の準備時間について賃金の支払いをもとめたものが挙げられます。この事例で最高裁は労働時間に該当するかは強行法規の適用を画するものであることから、労働契約や就業規則等で定まるのではなく、客観的に指揮命令下に置かれたかで決まるとし、使用者から義務付けられた場合、または余儀なくされた場合、社会通念上必要と認められる場合は労働時間に該当するとしました(最高裁平成12年3月9日)。そして仮眠時間が労働時間に該当するかが問題となった事例では、24時間勤務のビル警備員は警報や電話等に直ちに対応することが義務付けられていることから、労働から完全に離れてることが保障されていないとし労働時間に該当すると判断されました(最高裁平成14年2月28日)。また住み込みのマンション管理人に関しても、所定労働時間外でも住民の要求に応じる必要があり、断続的業務に備えて待機せざるを得ない状態であったとして居室での不活動時間も労働時間と認められております(最高裁平成19年10月17日)。
賃金請求権の時効期間
労働基準法115条では、賃金請求権は行使することができる時から5年間、その他の請求権については2年間で時効消滅するとしております。これは2020年4月施行の改正労基法の規定で、改正前の賃金請求権の消滅時効期間は2年とされていたところ5年に改正されたというものです。なお当分の間は3年間となっております。付加金の請求期間も同様となっております。この賃金請求権の時効期間の対象は、賃金以外にも休業手当、出来高払制の保障給、時間外・休日割増賃金、年次有給休暇中の賃金、未成年者の賃金なども含まれるとされます。なお退職金請求権についての消滅時効期間は従来から5年となっており変更はありません。
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