ANAが日本貨物航空の子会社化を延期、組織再編の効力発生日について
2023/10/04 商事法務, 会社法, 流通

はじめに
日本貨物航空(NCA)の子会社化を予定しているANAホールディングスが予定日を来年2月1日に延期すると発表しました。企業結合審査に時間を要するとのことです。今回は組織再編行為の効力発生日とその変更についてみていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ANAホールディングスは以前NCAの株式を27.59%保有しておりましたが、2005年に全株式を日本郵船に譲渡しました。その後欧米への貨物便を運行するNCAを傘下に収め、航空貨物事業を拡大するため同社を子会社化することとなったとされます。子会社化は簡易株式交換の方法により実施され、株主総会の承認決議を経ずに行われる予定でした。当初の予定では2023年10月1日を効力発生日としておりましたが、国内外の関係当局による企業結合審査の完了までに時間を要することから2024年2月1日に変更となったとのことです。NCAの完全子会社化により貸借対照表、損益計算書は連結化される予定です。
簡易株式交換と完全子会社化
ある会社を完全子会社化する方法として株式交換があります。株式交換は子会社となる会社の株式を強制的に親会社となる会社に移転させ、子会社となる会社の株主には代わりに親会社となる会社の株式等を交付するという制度です。対価が株式でよいことから買収資金が必要なく、対象会社で3分の2以上の賛成があれば少数株主を排除することができるというメリットがあります。この株式交換には原則として両社の株主総会で承認決議が必要ですが、対価として子会社側の株主に与える財産が親会社側の純資産額の20%以下である場合は親会社側で承認決議を省略できます(会社法796条2項)。この場合でも子会社側では省略はできません。なおこれに似た制度として略式株式交換も存在し、親会社側が子会社となる会社の株式を既に90%以上保有している場合は子会社側での承認決議が省略できます(796条1項)。
独禁法の企業結合規制
独禁法では株式取得、役員兼任、合併、会社分割、共同株式移転、事業譲渡等に関して、それにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合はこれらの企業結合を禁止しております(10条~16条)。具体的には一定の規模の企業結合計画について会社に対し公取委に事前の届出を義務付けております。届出を要する場合とは、国内売上合計額が200億円を超える会社が50億円を超える会社と結合するといった場合です。この届出を行った当事会社は原則として受理の日から30日を経過するまで企業結合を実行することができません。この1次審査でさらに詳細な審査が必要と判断された場合はさらに期間が延長されることとなります。その結果問題有りとされた場合は意見聴取を経て排除措置命令が出されることとなります。
組織再編行為の効力発生日の変更
吸収合併や吸収分割、株式交換といった、いわゆる吸収型組織再編では効力発生日は契約で定めた日となります。この効力発生日は両当事会社の合意によって変更することが可能です。効力発生日を変更した場合は変更前の効力発生日の前日までに変更後の効力発生日を公告する必要があります(790条2項)。ただしこの公告は消滅会社や完全子会社側で必要とされ、存続会社や完全親会社側では不要です。逆に親会社側は登記の際に、効力発生日を変更した旨の当事会社の契約書や取締役会議事録が求められることとなります。なお新設合併や株式移転等、いわゆる新設型組織再編では会社の設立登記の日が効力発生日となります。
コメント
本件でANAホールディングスの簡易株式交換によるNCAの完全子会社化は今年10月1日を予定されておりました。しかし国内外の競争当局による企業結合審査に時間を要することから4カ月遅らせる変更がなされております。NCAは9月26日付で株式交換の効力発生日変更公告を行いました。以上のように組織再編行為の効力発生日は当事会社の合意により変更することができます。その際は子会社となる側の会社が公告を行い、親会社となる側で登記の際に契約書や議事録を添付することとなります。この公告は本来の効力発生日の前日までに行う必要があり、ぎりぎりでの延長となった場合は手続きのスケジュールがタイトになってくると言えます。M&Aを検討している場合は、このような細かな手続きについても慎重に確認して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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