10月からステルスマーケティングが景表法の規制対象に
2023/10/03   コンプライアンス, 広告法務, 景品表示法

はじめに


広告であるにも関わらず、広告であることを隠して宣伝を行う、いわゆる“ステルスマーケティング”。10月1日より、このステルスマーケティングが「不当表示」として指定され(景表法第5条3号)、景品表示法の規制の対象となりました。
違反が認められれば、措置命令(景表法第7条)の対象となり、さらに措置命令に違反した場合には刑事罰(景表法第36条等)が科されることになります。

 

ステルスマーケティング規制の背景と具体的内容


■規制の背景
巷でも「ステマ」という略称でも知られるステルスマーケティング。その手法はいくつかありますが、例えば企業に依頼されたインフルエンサーが、ある商品の購入者であるかのように装い、第三者として体験談や口コミを投稿し、商品の購買を促進するなどの事例が確認されています。

一般的に消費者は、企業による広告・宣伝に対しては、一定の誇張・誇大が含まれていることを織り込んでおり、それを踏まえて購買・利用等の判断を行っていますが、逆に、企業ではない第三者による感想に対しては、購買者・利用者によるリアルな評価として、その内容を信じやすい傾向があります。

そのため、広告・宣伝であることが隠されている場合、企業ではない第三者の感想であると誤って認識してしまい、消費者が自主的かつ合理的に商品・サービスを選ぶことが出来なくなるおそれがあります。
こうした問題意識から、今回、ステルスマーケティング規制が行われることになりました。

 

■ステルスマーケティング規制の具体的内容
(1)ステルスマーケティングの定義
何をもって、ステルスマーケティングとするのか。この点、内閣府告示第十九号は、

①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって
②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

と定めています。より具体的には、「①事業者が表示内容の決定に関与したと認められる表示で、②表示内容全体に照らしたときに、消費者に対し事業者による表示であることが明瞭となっていないもの(第三者の表示であると消費者に誤認されるもの)」という基準に沿って運用されることになりそうです。

◇一般消費者が事業者の表示であることが不明瞭で分からないものの例
・事業者の表示であることが全く記載されていない
・事業者の表示であると、部分的な表示しかしていない
・冒頭に「広告」と記載も、文中に「第三者の感想」と記載するなど、事業者の表示である旨が分かりにくい
・動画内で事業者の表示である旨の表示を一般消費者が認識できないほど短い
・大量のハッシュタグ(#)の中で事業者の表示をする


今後は、自社社員によるSNSでの宣伝やインフルエンサーの活用・アフィリエイターへの委託など、企業が広告・宣伝を行う際は、違法なステルスマーケティングとみなされないよう、「広告」「宣伝」「PR」などといった表示を明瞭に行うことが求められます。

「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準

(2)ステルスマーケティングの規制対象
ステルスマーケティング規制の対象となるのは、商品・サービスを供給する事業者(広告主)です。事業者(広告主)より依頼を受けたインフルエンサーなどは対象外となります。

(3)規制の対象となる表示媒体
規制の対象となる表示媒体は、インターネット上の表示(SNS投稿、ECサイトのレビュー投稿など)、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌など商品又はサービスについて行うあらゆる表示媒体となります。

(4)違反に対する措置
事業者がステルスマーケティングを行っている疑いがある場合、消費者庁などが調査を行います。調査の結果、ステルスマーケティング規制への違反が認められたときには、消費者庁などから事業者に対し、措置命令(違反表示の差し止め、違反事実の一般消費者への周知、再発防止策の策定etc.)が行われ、措置命令の内容が公表されることになります。

 

不当表示等を起こさない体制整備


景品表示法第26条では、不当表示等(ステルスマーケティングを含む)を未然に防止すべく、事業者に対し、「不当表示等を起こさない体制整備」を行うことを義務付けています。これに関し、消費者庁は体制整備の参考としてもらうべく、管理上の措置の指針を公表しています。

■事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針
1 景品表示法の考え方の周知、啓発
第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)を利用して表示等を行う場合は、広告・宣伝を行う第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)に対する周知・啓発も含む。

2 法令遵守の方針等の明確化

3 表示等に関する情報の確認
第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)を利用して表示等を行う場合は、第三者の行う表示についても事前確認すること。

4 表示等に関する情報の共有
・商品又はサービスの内容の変更が行われ、表示等に影響を与える可能性がある場合、担当部門は速やかに表示等を担当する部門に変更になった旨を伝達すること。
・表示等を担当する従業員等が、表示等の根拠となる情報に速やかにアクセスできるようにしておくこと。
・表示内容の方針や根拠を第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)と共有すること。

5 表示等を管理するための担当者等を定めること

6 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
・表示等の根拠となる情報の記録・保存
・第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)を利用して表示等を行う場合、表示等の保存および表示等の根拠となる情報を事後的に確認出来るようにすること。

7 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
・不当表示が明らかになった際は、誤認を取り除くため、新聞・自社ウェブサイト・店頭での貼り紙等による一般消費者への周知及び不当な表示等の回収を速やかに行うこと。
・第三者(インフルエンサー、アフィリエイター)を利用して表示等を行っている場合は、迅速に不当表示を削除・修正出来る体制を構築すること。

 

コメント


近年、押し売り感のある広告を敬遠し、「第三者による客観的かつ具体的な感想を知りたい」と、SNS等による口コミが重視される流れがあります。これを受けて、商品やサービスの広告・宣伝のために、インフルエンサーやアフィリエイターなどを積極的に活用する事業者が増加傾向です。

そんな中で始まった今回のステルスマーケティング規制。自社が関わっている表示等が「事業者の表示」に分類されるのか、一般消費者が事業者の表示であることが明瞭で分かるものとなっているかなどは、各種要素を総合的に考慮して判断されることになります。消費者庁が発表している資料などを読み解きながら、その線引きを早期に把握しておくことが重要になります。

 

【関連リンク】
景品表示法とステルスマーケティング~事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック

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