業務中の怪我を報告せず書類送検、労働者死傷病報告とは
2023/09/21 労務法務, コンプライアンス, 危機管理, 労働法全般

はじめに
業務中に発生した職員の怪我を労基署に報告しなかったとして、信州うえだ農業共同組合と課長が書類送検されていたことがわかりました。職員2人の言い争いが原因とのことです。今回は労働者死傷病報告について見ていきます。
事案の概要
信越放送の報道によりますと、2022年12月、信州うえだ農業協同組合の店舗内で業務の打ち合わせ中に職員2人が言い争いとなり、1人が肋骨を折る大怪我をしたとされます。しかし同組合の課長はこれについての報告書を労基署に提出しなかったとのことです。上田労労基署は労働安全衛生法違反の疑いで、同組合と50代の課長を書類送検したとされます。
労働者私傷病報告とは
従業員が就業中の傷病により、休業等をした場合には会社は労基署に「労働者私傷病報告」の提出が必要となってきます(労働安全衛生法100条、労働安全衛生規則97条)。具体的には、労働者が労働災害によって負傷、窒息または急性中毒により死亡または休業したとき、または労働者が就業中以外で事業場内等で発生した負傷等により死亡または休業したときとされます。就業中でなくても報告の対象となる場合がある点に注意が必要です。これは労災保険の請求とはまた別のものであり、労災請求を行ったからといって労働者私傷病報告が必要なくなるというわけではありません。
労働者私傷病報告の手続き
労働者死傷病報告は労働者の休業日数で変わってきます。具体的には、休業4日以上の場合は様式23号で、休業4日未満の場合は様式24号で提出する必要があります。様式書類は厚労省のHPからダウンロードすることが可能です。この休業日数は、休業事由が発生した災害の翌日から数えて、休業を要する期間内に休日等が含まれる場合はこれを含めた歴日数が休業日数となるとされております。そして休業4日以上の傷病の場合は遅滞なく提出する必要がありますが、休業4日未満の傷病の場合は1月~3月、4月~6月、7月~9月、10月~12月の4つの期間における労災事故の報告をそれぞれの期間の最後の月の翌月末日までに提出することとなります。なお休業が発生しなかった場合は提出する必要はありません。
違反した場合
この労働者私傷病報告を故意に提出しない場合や、虚偽の内容を記載して提出した場合50万円以下の罰金となり、法人に対しても同様となっております(労働安全衛生法120条、122条)。これはいわゆる労災隠しと呼ばれており、罰則以外にも厚労省のHPで公表されたり、建設事業無災害表彰を受けていた場合はその剥奪、労災保険のメリット制での収支率の再計算といったリスクを負うこととなります。厚労省の発表でも労災隠しは毎年確認されており、労基署による調査・監督、取引先からの受注の減少、メリット制への影響や評判などの悪化を恐れて隠されることが多いと言われております。
コメント
本件では信州うえだ農業協同組合の店舗内で従業員2人が言い争いとなり1人が負傷したとされます。詳細は不明ですが、事業場内で発生した負傷であることから労働者死傷病報告の対象となると考えられます。以上のように事業場で発生した負傷の場合、労災に該当するか否かに関わらず労基署への報告が必要となってきます。この報告を行わない理由としては上記のように労災隠しの意図がある場合の他、労災に該当するかが微妙、または該当しないと考えた、そもそもこのような報告義務を知らなかったことが考えられます。従業員が負傷した場合は速やかに労基署に報告するよう社内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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