警備員による京三製作所工場放火事件、保険会社が警備会社に損害賠償請求
2023/09/14 危機管理, 訴訟対応, 保険業法, 金融・証券・保険, 警備業
はじめに
警備会社に所属していた警備員が、派遣先の工場に放火した事件。火災などによる損害を補填するために保険金を支払った、あいおいニッセイ同和損保は9月11日、警備会社を相手どり損害賠償請求の訴訟を提起しました。事件の概要を追いつつ、保険法についても触れていきます。
放火で逮捕の警備員 実刑へ
2021年1月14日に発生した株式会社京三製作所の本社工場での火災。神奈川県警はその半年後の2021年7月14日、放火および窃盗などの容疑で、工場の警備業務を委託されていたセントラル警備保障株式会社の元社員の男を逮捕しました。
報道などによりますと、男は別の派遣先でパソコン盗難騒ぎが起こった際にセントラル警備保障から犯人として疑われたことを不服に思い、2020年、京三製作所に侵入しモニター計7台を盗んだといいます。しかし、窃盗後も特に警備体制が変わらないことなどに不満を強め、2021年1月14日、従業員ら3人がいた鉄骨鉄筋コンクリート造5階建ての工場に侵入。ガスバーナーで火をつけて、およそ1050平方メートルが焼ける被害を出しました。
さらに無人だった鉄骨造2階建ての第2工場にも侵入し、放火。およそ500平方メートルを焼損させたとされています。男は、放火に加え、モニターなどを盗んだ際の建造物侵入と窃盗の罪でも起訴されています。
検察側は、動機は「セントラル警備保障の信用を失わせるためだった」と指摘。懲役15年を求刑しました。
男は、初公判で起訴内容を認めましたが、弁護側は、「人身被害がなく、製作所に生じたおよそ160億円の損失の多くは保険金で補填されているなどと」として、量刑を争う姿勢を見せました。
2022年11月25日、横浜地方裁判所は懲役12年の判決を言い渡しました。判決では、当時、京三製作所の警備員だった男が、職務上の知識を悪用して短時間で放火を行った悪質性を指摘。さらに、放火により発生した損害についても「財産的被害も甚大で、結果は重大」と断罪しています。
保険会社が警備会社に損害賠償請求
164億円を超える損害が生じた今回の放火事件。京三製作所と損害保険契約を締結していた、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社が、損害の補填として、保険金を京三製作所に支払いました。これにより、あいおいニッセイ同和損保側がセントラル警備保障に対する損害賠償請求権を代位取得しています。
7月18日、あいおいニッセイ同和損害保険はセントラル警備保障に対し、保険代位に基づく損害賠償(元従業員に対する使用者責任)として25億6675万1273円を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しました。
保険法に基づく損害賠償請求権の代位取得
保険法では損害保険契約や傷害疾病損害保険契約にて、請求権代位が適用されると定められています。これは、保険者が被保険者に保険金を支払うなどの保険給付を行ったとき、一定額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権について被保険者に代わって請求する地位を取得させる制度です。(第25条1項)
保険者が代位する額は、保険者が行った保険給付の額と被保険者債権の額のうち少ない額を限度とするとされています。もし、保険給付の額が、てん補損害額に不足するときは被保険者債権の額から不足額を控除した残額となります。
第二十五条 保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
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(1)保険事故によって被保険者に損害が生じたことで被保険者が、加害者である第三者に対して権利を取得すること
被保険者が第三者に対して有する債権が債務不履行となったことによって生じた損害をてん補する場合に、保険金を支払った保険者が取得する当該債権も含まれます。
(2)保険者が保険契約に基づいて被保険者に保険金を支払うなどの保険給付を行うこと
保険者が負担額の一部を支払った場合でも、保険給付を行えば代位は認められます。
コメント
今回活用された、保険法第25条1項に基づく損害賠償請求権の代位制度。迅速な保険金支払いを実現すると共に、被保険者・保険会社・加害者等の利害関係の調整を行うことで、被保険者の利得防止(保険金と加害者からの損害賠償金の二重取りの防止)や加害者の免責阻止を同時に確保させる非常に興味深い制度です。
リスクへの対応を求められる法務部門においても、近年、損害保険等を積極的に活用する動きが見られます。これを機に保険法を再度見直しておくのもよいかもしれません。
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