日本郵便元契約社員が敗訴、手当の格差について
2023/07/21   労務法務, 労働法全般

はじめに

 日本郵便の元契約社員の男性(34)が、正社員に支給される寒冷地手当が付かないのは不当だとして同社に支給を求めていた訴訟で20日、東京地裁が請求を棄却しました。不合理な待遇差とは言えないとのことです。今回は非正規労働者の手当格差について最高裁判例を踏まえ見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日本郵便では寒冷地に勤務する正社員に対し、冬季5ヶ月間は月約7000円~約2万6000円の寒冷地手当を支給してきたとされます。原告の男性は岩手県の郵便局で2007年~22年まで契約社員として勤務していたところ、契約社員にはこの寒冷地手当が支給されておらず旧労働契約法20条に違反するとして提訴していたとのことです。なお寒冷地手当の他、住居手当、年末年始勤務手当、扶養手当、夏期冬期休暇、有給の病気休暇付与、年始祝日給などについても支払いを求めておりましたが、寒冷地手当以外については2020年10月に有期契約社員に支給しないのは違法とする最高裁判決出たことにより和解が成立しております。

 

同一労働同一賃金の原則

 雇用形態に関わらず、同一の労働に対しては同一の賃金が払われるべきとの考えを同一労働同一賃金の原則と言います。パートタイム・有期雇用労働法8条によりますと、「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない」としております。非正規・有期雇用というだけで正社員との間に不合理な待遇格差をつけてはいけないということです。なおこの規定は2020年4月1日以前は旧労働契約法20条に規定されておりましたが、法改正により本条に移行しております。

 

同一労働同一賃金に関する判例

 最高裁判例(最判平成30年6月1日)によりますと、旧労働契約法20条は非正規・有期契約労働者と正社員との間には様々な労働条件の違いがあることから、それに応じて待遇の差異を設けること自体は禁止されていないとしており、その相違が不合理なものであってはならないとしております。そして条文によれば、その相違は(1)労働者の業務の内容および業務に伴う責任の程度、(2)職務の内容および配置の変更の範囲、(3)その他の事情を考慮して不合理性を判断するとしております。そして最高裁は原告が定年後に再雇用されたという事情を「その他の事情」に該当するとし、定年後の再雇用を定年前と異なり長期間雇用されることが予定されていないこと、老齢厚生年金をうけることができることなどを考慮して賃金面の格差を不合理ではないとしました。

 

日本郵便事件判例

 上でも述べた日本郵便の手当格差に関する最高裁の判決(最判令和2年10月15日)では、賃金格差の不合理性を判断するにあたり、両者の賃金の総額を比較することのみではなく、各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとし、(1)年末年始休暇については多くの労働者が休日として過ごしている年末年始に業務に従事したことに対する対価であることが趣旨として契約社員にも同様に妥当するとし相違は不合理としました。ほぼ同様の理由で(2)祝日給についても相違は不合理としております。また生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせ継続的な雇用を確保する趣旨である(3)扶養手当や、年次有給休暇等以外で労働から離れる機会を与え、心身の回復を図る趣旨である(4)夏期冬期休暇、私傷病療養に専念させることを通じて継続的雇用を確保する趣旨である(5)病気休暇についても契約社員にも妥当するとして相違は不合理と判断しております。

 

コメント

 本件で東京地裁は寒冷地手当を「正社員間の公平を図る趣旨で支給されているもの」であるとし、勤務地によって基本給に差異がない正社員の寒冷地での生活費の増加を緩和することが趣旨であるとしました。一方で契約社員は地域別最低賃金によって勤務地による生計費も考慮されているとし寒冷地手当不支給を不合理ではないと判断しました。以上のように法は正規・非正規で待遇差を設けること自体を禁止しているわけではありません。業務内容や責任の程度、配転の範囲その他の事情などを考慮して合理的であれば良いということです。裁判所もそれぞれの手当の趣旨を分析して非正規労働者にも妥当するかを判断しております。非正規やアルバイトであるという理由だけで不支給にするのではなく、正社員との違いを緻密に考慮して合理的に待遇を検討することが重要と言えるでしょう。

 

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