有明のり全量出荷で公取委が再発防止認定、拘束条件付取引について
2023/07/19 コンプライアンス, 独禁法対応, 独占禁止法

はじめに
福岡県の漁協が有明のりの生産者に全量出荷を求めていたとして独禁法違反の疑いで調査が行われていた問題で、公取委が再発防止計画を認定していたことがわかりました。漁協側と公取委の主張はいまだ膠着状態とのことです。今回は独禁法の拘束条件付取引を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、福岡有明海漁業協同組合連合会や熊本県業業協同組合連合会、佐賀県有明海業業協同組合などは、のりの生産者に対して、個人でインターネットなどを介して販売することを認めず、全て漁協などを通す「全量出荷」に応じるよう求めていたとされます。その際、漁連側は生産者に対し誓約書に署名させるなどしており、相手の事業活動を不当に制限する拘束条件付取引に該当する疑いがあるとして公取委が調査を進めていたとのことです。福岡県の漁連は今年5月に誓約書の廃止などを盛り込んだ再発防止の確約契約を提出し、6月27日に公取委の認定を受けたとされます。公取委は共販制度自体の否定ではなく、時代にあわせて改善すべき点の指摘としております。
排他条件付取引
公取委の一般指定11項では、「不当に、相手方が競争者と取引をしないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあること」を不公正な取引方法の1つである排他条件付取引として禁止しております(独禁法19条)。排他条件付取引には3つの行為類型があるとされ、商品や役務を供給する側が、相手に対し他の事業者から同種の商品や役務の供給を受けないことを条件として取引する場合と、逆に供給を受ける側が、他の事業者に供給しないことを条件に取引する場合、そして互いに供給する立場にある事業者同士が他の事業者から供給を受けないことを条件として取引する場合に分けられます。このような取引により他の事業者の事業活動が阻害されるということです。
拘束条件付取引
一般指定13項では、「前二項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」を拘束条件付取引として禁止しております。前二項に該当する行為とは上記の排他条件付取引と再販売価格の拘束を指します。拘束条件付取引に該当しうる行為としては、メーカーが一定の販売方法を守っている小売業者にのみ販売したり、再販売先を特定の事業者に制限するといった場合が挙げられます。実際に問題となった例としては、化粧品メーカーが小売業者に対面説明義務を課し、それを守る小売業者にのみ販売していたという事例が挙げられます(最小判平成10年12月18日花王化粧品事件)。この事例ではカウンセリング販売の義務に必然的に伴う義務として適法とされております。メーカーが販売業者を選別すること自体に問題はなく、不合理な制限を付与する場合に違法となるということです。
公正競争阻害性
独禁法違反行為は上記のような行為要件の他に競争に与える影響としての公正競争阻害性が求められます。排他条件付取引も拘束条件付取引も「不当に」という文言があることから、その行為自体は本来適法ですが、不当に行った場合には違法になるということです。この不当性が公正競争阻害性を意味します。排他条件付取引や拘束条件付取引における公正競争阻害性の内容は自由競争の減殺とされております。また拘束条件付取引は上でも述べたように排他条件付取引や再販売価格の拘束以外を広く包摂することから、その公正競争阻害性は「行為の形態や拘束の程度等に応じて」個別的に判断されるとされております(最判平成10年12月18日)。そして公正競争阻害性は、事業者の市場におけるシェアや市場集中度、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易度、ブランド力など様々な要素を考慮して判断されます。
コメント
本件で福岡有明漁連は誓約書の廃止や違反被疑行為を行わないことの周知、独禁法遵守についての方針作成と周知・研修などを盛り込んだ確約計画を作成し公取委に認定されました。漁連の共販制度は多数の生産者からのりが一箇所に集められ、品質検査、等級認定、入札まで一括して行われるもので、制度自体の必要性は認められております。しかし公取委は時代に合わせた改善を求めており、他の販売ルートや販売方法を排除しないよう配慮すべきということです。平生30年の「味一ねぎ」排除措置命令事件でも発端は販売価格の下落で採算をとることが困難な状況に陥り、他の販売ルートを求めた結果であったことから、昨今のコスト上昇も相まって同様の事例は今後も増えていくことが予想されます。時代に合わせた柔軟な制度変更も検討していくことが重要と言えるでしょう。
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