ANAがNCAを完全子会社化へ、簡易株式交換とは
2023/07/12 商事法務, 戦略法務, 会社法

はじめに
ANAホールディングスは10日、日本貨物航空(NCA)を10月1日に完全子会社化すると発表しました。簡易株式交換によるとのことです。今回は組織再編行為の一つである簡易株式交換について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、全日本空輸(NCA)を傘下に持つANAホールディングスは今年3月7日に、日本貨物航空を株式交換により完全子会社化する旨の基本合意をしたとされます。ANAはかつてNCAの株式を27.59%保有していましたが、2005年に日本郵船に譲渡していた過去があります。今回の子会社化により航空貨物事業を拡大する方針とのことです。今回は簡易株式交換によるとされ、NCA側は9月中旬までに臨時株主総会を招集して承認決議を得る見通しです。ANA側は株主総会の承認決議を受けずに行われる予定とされております。
株式交換とは
株式交換とは、完全子会社となる会社の発行済株式の全部を親会社となる会社に取得させ、完全親子会社関係を創設する会社法上のスキームです。完全子会社となる会社の株主に対しては対価として親会社の株式を交付することが多いと言えますが、現金等や完全親会社の親会社株式を交付することも可能です。買収資金を用意する必要がなく、また別途少数株主のスクイーズアウトをすることなく迅速に株式を100%取得することができます。なお株式交換に似た制度として株式交付という制度が令和3年会社法改正で導入されましたが、こちらは親子会社(議決権の50%超)関係を構築するためのもので、株式交換のように株式の100%を強制的に取得するといったものではありません。
株式交換の手続き
株式交換も合併や分割などと同様に組織再編行為の一種であることから、まず両当事会社で株式交換契約を締結する必要があります(767条、768条)。次に株主総会の2週間前までに事前開示書類を備え置きます(782条、794条)。そして効力発生日の前日までに株主総会の特別決議による承認を得ることとなります(783条、795条、309条2項12号)。事前に反対の意思を表明した株主等は会社に株式の買取請求をすることができます(785条、797条)。完全子会社となる会社が株券発行会社である場合は効力発生日の1ヶ月前までに株券提供公告を行います(219条7号)。効力発生日に完全子会社の株式を親会社が取得しますが、対価として株式を発行する場合には2週間以内に登記する必要があります(915条1項)。最後に効力発生美から6ヶ月の間、両当事会社で株式交換の結果などを記載した書類を本店に備え置きます(791条、801条)。
簡易株式交換とは
上記のように株式交換をする際には、原則として両当事会社で株主総会の特別決議による承認が必要です。しかし親会社となる会社が支払う対価(子会社株主に交付する株式等)が純資産額の5分の1以下である場合は親会社側の株主総会を省略することができます。これを簡易株式交換と言います。対価が大きくない組織再編を簡易・迅速に行うことを目的としております。このような組織再編の場合は会社や株主への影響が大きくないことから、反対株主の買取請求も認められておりません(797条1項)。ただし、差損が生じる場合や、親会社が非公開会社で対価が譲渡制限株式である場合、6分の1を超える株主が反対した場合は簡易株式交換はできず、原則通り株主総会による承認が必要となります(796条2項ただし書き、3項)。
コメント
本件でNCA側は9月中旬までに臨時株主総会を開催して、株式交換によりANAホールディングスの完全子会社となることの承認を得る予定とされます。一方でANA側は簡易株式交換であることから承認決議を得ずにNCAを完全子会社化する予定です。一定割合の株主が反対の通知を行わなければ10月1日付で子会社化が完了する見通しとなります。以上のように株式交換などの組織再編行為は一定の場合に株主総会による承認決議を省略することが可能です。また対価等が一定額以下である場合だけでなく、相手会社が自社の特別支配株主である場合も株主総会を省略できます。こちらは略式株式交換や略式合併などと呼ばれます。これらの手続きや要件などを踏まえて柔軟な経営統合や組織再編を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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