新型コロナウイルスの5類感染症移行と労務管理
2023/05/10 労務法務, 労働法全般

はじめに
政府は、5月8日より、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けを従前の「2類相当」から「5類」に移行すると発表しました。いわゆる季節性インフルエンザと同じカテゴリーに入ったことになります。コロナ禍の3年間で、企業は、新型コロナウイルスの感染拡大対策として、テレワークの推奨や採用面接のオンライン化、訪問営業の自粛を通知するなど、従業員の働き方に大きな変更を加えて来ました。しかし、今回の5類移行をきっかけに、従業員の働き方を再度検討する企業も少なくないようです。それにより、働き方の多様化が加速することが予想されます。こうした状況下で、法務部門としてどのような対応を準備すべきでしょうか。
5類移行でも働き方はコロナ前には戻らない?
企業の信用調査などを行う帝国データバンクは、「新型コロナウイルス感染症の5類移行後、従業員の働き方を新型コロナ前と比べてどの程度変化させるか」という調査を行っています(調査期間:2023年3月17日~31 日、有効回答企業数:1万1,428社)。
その調査結果によると、新型コロナウイルス感染拡大前と同じ状態に戻すと回答した企業が4割近くあったといいます。その一方で、多少なりとも変化させると回答した企業も4割ほどあることがわかりました。
また、変化の度合いに目を移したときに、「100%異なる」と回答した企業が0.9%、「8割程度異なる」が3.1%、「半分程度異なる」が11.5%、「2割程度異なる」が22.5%でした。
こうした働き方の変化に関しては、企業規模の影響も大きく、従業員数1,000 人超の企業では、実に52.9%が「新型コロナ前と働き方が異なる」と回答しています。
また、働き方が変わった点として、具体的には、
・在宅ワークの浸透
・拠点間や取引先との会議のオンライン化による出張の減少
などが挙げられていました。
新型コロナ「5類」移行時の働き方の変化に関する実態調査(帝国データバンク)
海外では、テレワークに絡む訴訟も?
新型コロナウイルス感染拡大を機に多様化する働き方。テレワークを取り入れる企業が急増する中、海外ではテレワークに関連して、従業員と企業間でトラブルになり訴訟に発展したケースが報告されています。
オランダで在宅勤務をしていた男性。勤め先はアメリカのソフトウェア会社でした。
男性はテレワーク中、会社からパソコンのウェブカメラをオンにしたうえで作業中のパソコン画面を共有するよう指示されましたが、作業中の画面の共有には応じたもののウェブカメラのオンについてはこれを拒否。結果的に、男性はウェブカメラオフを理由に解雇されることになりました。
男性は不当解雇だとして裁判で争うことに。男性は、作業中の画面共有で業務状況を把握できるにもかかわらず、それとは別に、ウェブカメラで常に監視にされることはプライバシーの侵害にあたると主張しました。最終的に両者は和解しましたが、勤務先のソフトウェア会社は和解金として72,700ドル、日本円にして約980万円を支払ったとされています。
多様化する働き方の中で
ウェブカメラのオンオフが理由で解雇というのは極端な事例かもしれませんが、テレワークと出勤を組み合わせたハイブリッドな働き方を進める企業も増える中で、テレワークに関連して従業員との間でのトラブルが発生することは十分に考えられます。問題を避けるためにどういった対策が考えられるのでしょうか?
1.労働基準関係法令の適用の確認
まず、テレワークに関し、適用される労働基準関係法令を確認することが必要になります。
(1)労働基準法
労働条件の明示、労働時間制度の適用と留意点、休憩時間の取扱いについて、時間外・休日労働の労働時間管理、長時間労働対策などを整備する必要があります。
(2)労働安全衛生法
安全衛生関係法令の適用、自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備の留意、労働災害の補償に関する留意点などを整備する必要があります。
2.情報セキュリティの確保
テレワークでは、従業員が在宅で企業の秘密情報や個人情報を扱う場合があるため、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。データ漏えいやハッキングのリスクを低減するため、企業はVPNなどの暗号化された通信システムを導入し、強固なパスワードを必須とするなどPCやモバイル端末のセキュリティ対策を確認しなくてはなりません。
3.リスクマネジメントの実施
上述の労働災害の補償とも一部重なりますが、テレワーク中の社員が交通事故や怪我、病気にかかった場合、企業がどのような責任を負うのかを検討し、そのリスクを最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。
4.契約条件の更新
テレワークを実施する場合、締結済の労働契約の更新や新規採用時の契約内容の変更、社内規程の改定等が必要となる場合があります。法務部門としては、既存の従業員との契約交渉のサポートや、労働契約の雛形の修正、社内規程の修正などが求められる可能性があります。
コメント
5類移行を機に、働き方をコロナ前に戻す企業も少なくない一方、5類移行を号砲として、本格的に新しい働き方を定着させる動きも出て来ています。特に、テレワークについては時間や場所が有効活用できるという面でメリットが大きく、大なり小なり定着して行くことになりそうです。
一方で、テレワークに関する事例の蓄積が少ないだけに、予期せぬ労務紛争に繋がるおそれがあります。従業員の多様な働き方を尊重しながら会社としても大きく成長できるよう、法務としても万全の準備を整える必要があります。
【参考リンク】
テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン(厚生労働省)
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