フリーランス・事業者間取引適正化法が可決、成立
2023/05/02   契約法務, コンプライアンス, 下請法

はじめに


4月28日、フリーランス・事業者間取引適正化法(以下「フリーランス保護法」)が参院本会議で可決、成立しました。フリーランスを保護する目的で制定されるこの法律の成立により、フリーランスに業務を委託する企業に様々な義務が発生することとなります。また、違反した場合、罰金が科されるケースもあります。本記事では、フリーランス保護法の概要をご紹介します。

 

フリーランス保護法制定の背景は?


フリーランスとは、自らの能力やスキルを活かして、会社などに所属せずに個人で仕事を行う人のことを指します。職種も幅広く、デザイナーやプログラマー、ライター、コンサルタント、イラストレーターなどと多岐に渡ります。

フリーランスとして働くメリットは、主に、①自分自身で仕事を選ぶことができる点、②働く場所や時間に制約されない点などです。その反面、安定した収入を得ることに苦戦しているフリーランスも相当数いるとされています。

日本におけるフリーランスの人数は正確には把握されていませんが、内閣府の発表によると、2020年時点で450万人前後いるとされています。そして、働き方が多様化する中で、その数は今後も増加していくとみられています。

今回のフリーランス保護法は、こうしたフリーランス増加の状況を受け、フリーランスが受託した仕事を安定して続けられる労働環境を整備するべく、制定された形になります。

 

企業が負うフリーランス保護法上の義務


フリーランス保護法では、業務を受託する人のうち従業員を使用しないものを「特定受託事業者」と呼び、保護の対象としています。企業(特定業務委託事業者)が、特定受託事業者に対して業務を委託をした場合、

・仕事の内容や報酬額などを書面や電子データで示すこと
・フリーランスが納品など仕事の成果物を受け取った日から60日以内(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)に報酬支払期日を設定し支払うこと

などが義務付けられます。

また、特定業務委託事業者は、以下の行為が禁止されます。
①特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
②特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること

さらに、特定業務委託事業者は⑥・⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならないと明記されています。

⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

この他にも、
・広告などで仕事を募る場合に、虚偽の表示せず、その内容を正確で最新の内容に保つこと
・フリーランスと一定期間契約がある場合(継続的業務委託)に、育児や介護などを両立して業務ができるよう、フリーランス側からの申出に応じて必要な配慮をすること
・ハラスメント行為に関する相談体制を整えること
・継続的業務委託を中途解除する場合などには、原則、30日前までにフリーランス側に事前に予告すること

などが定められています。

なお、これらに違反した場合、公正取引委員会・中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるとされています。さらに、命令違反及び検査拒否等に対しては50万円以下の罰金に処され、加えて、法人両罰規定も設けられています。

 

フリーランスの実状


業務委託に関し、取引先とトラブルとなるフリーランスは少なくないとされています。中小企業庁が発表した中小企業・小規模事業者の実態調査の結果によると、取引先とのトラブルを経験したことがあるフリーランスの割合は4割にのぼるといいます。

取引先とのトラブル内容に目を向けると、契約内容に関し、そもそも書面・電子メールが交付されていないケース、交付されていても取引条件が十分に明記されていないケースが合わせて6割となりました。

加えて、「発注の時点で、報酬や業務の内容などが明示されなかった」、「報酬の支払が遅れた・期日に支払われなかった」と回答したフリーランスが多くいたということです。

また、トラブルに見舞われたフリーランスのうち、約半数が取引先と直接交渉をしている一方、交渉することなく泣き寝入りしたフリーランスが2割、交渉せず自分から取引を中止したフリーランスは1割にのぼったといいます。

泣き寝入りした理由については、「受け入れないと、今後、取引が打ち切られたり、減らされたりすることとなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」、「受け入れないと、その取引が成立しなくなり、フリーランスの活動に大きな支障を来すため」との回答が寄せられています。

中小企業・小規模事業者の実態~多様な中小企業・小規模事業者~(中小企業庁)

 

コメント


働き方が多様化する中で、大手企業においても、フリーランスを活用する動きが活発化しています。会社から独立してフリーランスとして前職から仕事を受託するケース、豊富な経験を買われコンサルタントという立場でプロジェクトに参画するケース、IT分野など専門技術の高さを買われて仕事の受注を受けるケースなどが見られます。

フリーランスに対しては、原則、労働法の適用がありませんが、その分、今後、フリーランス保護法を厳格に遵守して行く必要があります。フリーランス保護法は、1年半以内の施行が予定されています。現在既にフリーランスを利用している企業においては、特に、規制内容の把握と現場への十分な周知が必要になってきます。

 

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