北海道の水産会社のインサイダー取引事件、専務に懲役1年6ケ月求刑
2023/04/28   戦略法務, コンプライアンス, 会社法

はじめに


「TOBを成立させたくてやってしまった。」
被告人質問で謝罪の弁を述べた三印三浦水産株式会社(函館市)の専務。
インサイダー取引などを行った罪に問われ、検察側から懲役1年6か月を求刑されました。

情報漏洩が原因の一つとなり、巻き起こった今回の事件。本記事では、事件の経緯を整理すると共に、情報漏洩防止のために企業ができる対策について考察します。

 

事件の経緯


証券取引等監視委員会の発表によると、今回、被告人となった男性は、三印三浦水産の専務職に加え、上場中の水産会社、東都水産株式会社(東京)の社外取締役も務めていました。男性は、令和2年9月上旬ごろ、東都水産の役員らを通じて(役員らは、合同会社ASTSホールディングスからの伝達により知得)、「ASTSホールディングスの業務執行を決定する機関が東都水産の株券の公開買付けを行うことについての決定をした」旨の情報を入手したとされています。

それを受けて、男性は公表前の内部情報であるにもかかわらず、三印三浦水産名義で、東都水産の株合計8000株、合計約2900万円で買い付けました。さらに、男性は令和2年11月上旬ごろ、知人にも内部情報を伝達。知人は東都水産の株500株を合計約200万円で買い付けています。

これらの事実が、金融商品取引法違反(内部者取引、情報伝達)を構成するとして、函館地方検察庁に告発されていました。

報道によりますと、函館地方裁判所で行われた被告人質問で男性は「TOBを成立させたくてやってしまった。関係者に深くお詫び申し上げる」と述べたということです。

検察側は「インサイダー取引で市場の公平性を害した。その目的がTOBの成立だったとしても、公表後に正規の手続きで株式を取得するべきであり、結局のところ、公表前の安価な価格で株式を取得しようとしたに過ぎない」などと指摘し、懲役1年6ケ月を求刑。また、法人としての三印三浦水産に罰金100万円を求刑しています。

一方、弁護側は「隠蔽工作などはしておらず、反省している」として寛大な処分を求めています。

 

情報を外部に漏らさない対策


上述のように、被告男性は、今回のインサイダー取引の動機として「TOBを成立させたかった」と述べています。TOBとは、"Take Over Bid"の略称です。上場会社の株券等につき、取引所外で一定の買付を行う場合に、買付者に買付期間・買付数量・買付価格等をあらかじめ提示することを義務付ける制度です。株主に公平に売却の機会を与えることを目的としています。

近年、TOBを重要事実とするインサイダー取引が増加傾向といいます。TOBの場合、TOB取引の事実、対象者名、買付者名、TOB実施時期などが重要事実となりえます。TOBには多数の人間が関わることになるため、その分、情報漏洩のリスクが高まる傾向があります。こうした重要な情報の漏洩防止に向けて、以下の対策が考えられます。

 

(1)情報伝達範囲・内容の限定
範囲だけでなく、内容の限定も留意することが有益とされています。特にリテール部門への伝達、銀行の伝達範囲の広さには注意が必要です。

(2)情報管理態勢の強化
情報漏洩の一因としてアクセス制限や監視体制の不十分さ、社員の認識不足が挙げられます。TOB前に、TOBに関与する者の特定、社員の教育や監視体制の強化、外部からの不正アクセスへの対策、機密情報の暗号化やデータ消去など、漏洩リスクを低減するための対策を講じることが重要です。

(3)秘密保持契約の締結
TOBでは、弁護士等、法律上の守秘義務を負っている専門家以外の当事者にも情報を開示する場面があります。特に、銀行や印刷会社と秘密保持契約を締結しないままに情報開示を行うケースが少なくないため、注意が必要です。

(4)情報漏洩発生時の対応策の策定
万が一情報漏洩が発生した場合、迅速かつ適切な対応が肝になります。情報漏洩がどこから発生したのか特定すること、漏洩した情報の確認、被害の範囲の評価などをスピーディーに行うことが大切です。こうした対応により、情報漏洩によって発生した損害を確認し、さらに責任の所在も明確にすることができます。また、ステークホルダーへの説明が必要になる場合もあるため、迅速な情報提供が信頼につながります。

 

コメント


TOBでは、とにかく関与者が多いため、一般的な取引や手続きと比べても、より精緻な情報管理が必要となります。具体的には、関与者の属性ごとに、

・作業量
・関与の度合い
・関与開始のタイミング
・関与する者の人数
・外部委託の可能性
・受領する情報の類型
・法律上の守秘義務の有無
・各関与者が自ら行っているリスクコントロールの内容

を特定。その上で、関与者ごとの漏洩リスクを評価し、個別に対策を練ることが重要になります。

自社でインサイダー取引が発生した場合、行為者が送検され、法人も罰を受ける可能性があるなど、その法的リスクは小さいとは言えません。慎重に慎重を期した対応が求められます。

 

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