旧統一教会が名誉棄損でテレビ局などを提訴
2023/02/14 訴訟対応, 民事訴訟法, 刑事法

はじめに
情報番組で名誉を毀損されたとして、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が読売テレビと出演者の紀藤正樹弁護士に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が13日に開かれました。被告側はスラップ訴訟であると反論しているとのことです。今回はスラップ訴訟について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年7月に発生した安倍晋三元首相への銃撃事件以降、旧統一教会の信者による過剰な献金、日本政界への長年にわたる浸透工作などが社会問題として注目を集めるようになったとされます。そんな中旧統一教会は、読売テレビとTBSテレビなどの報道番組に出演して同教団を取り上げ続けた紀藤正樹弁護士らを相手取り名誉が毀損されたなどとして計9900万円を請求する5件の訴訟を東京地裁に提起したとのことです。これに対し紀藤弁護士側は「言論封殺を目的としたスラップ訴訟だ」として請求棄却を求めているとされます。教団側は精神的苦痛を信者が受けたことによる提訴でありスラップ訴訟ではないとしております。
スラップ訴訟とは
スラップ(SLAPP)訴訟とは、Strategic Lawsuit Against Public
Partcipationの略で、企業や政府を批判する言論や報道、消費者問題や環境問題等で被害を訴える市民などを相手に、名誉毀損などを理由として高額な損害賠償を請求する訴訟を提起し、それによって威圧・恫喝して言論活動などを封殺するといった訴訟を言います。平手打ちを意味する「slap」にかけた呼称とも言われ、資金的・人的に余裕のある強者が、それらに余裕がない弱者に応訴の負担や経済的・時間的または精神的に負担を強いることを目的としており、実際に勝訴することは二の次と言われております。そのため「恫喝訴訟」「口封じ訴訟」「威圧訴訟」などとも呼ばれております。このような訴訟は消費者運動が盛んになっていた80年代のアメリカで多発するようになり問題視されてきました。現在アメリカではスラップ訴訟を禁止していたり、また原告側にスラップ訴訟ではないことの立証責任を負わせている州があるとされております。
日本でのスラップ訴訟
それでは日本はスラップ訴訟をどのように扱っているのでしょうか。この点については残念ながら現時点でこのような訴訟を直接規制する法制度は存在しておりません。しかし一定の場合にはスラップ訴訟の提起自体が不法行為を構成し、逆に損害賠償を命じられることがあります(民法709条)。この点につき最高裁は、「訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り」違法な不法行為となるとしております(最判昭和63年1月26日)。つまり名誉毀損的事実は存在せず、当人もそれがわかっていながら威圧目的などで提訴した場合は違法となる可能性があるということです。本件と同様の事例で教団から2億円余りの献金を強要されたとして元信者が提訴したことに対し、教団側が逆に8億円の損害賠償を求めた事例で裁判所は、請求額が異常に高額なことからも威圧目的であると認定し違法としました(幸福の科学事件、東京地裁平成13年6月29日)。
反訴の提起
上記のようにいわゆるスラップ訴訟はそれ自体が不法行為となる場合があります。そこでこのような訴訟を提起された場合、被告側は逆に損害賠償を請求する反訴を提起することが可能です。反訴とは被告が原告に対し、その訴訟の手続内で同一裁判所による審理を求め提訴することを言います。反訴はどのような場合でもできるわけではなく、一定の要件があります。民事訴訟法146条1項によりますと、原告の本訴請求、または被告の防御方法と関連する請求に限り提起できるとされております。たとえば土地明渡請求に対して、被告側が賃借権の存在の確認を求めたり、事故に基づく損害賠償請求に対し、原告の過失に基づいて被告が同じように損害賠償を求めるといった場合です。また控訴審では相手が同意または応訴した場合に限られたり、著しく訴訟を遅滞させないといった制限もあります(同2号、300条1項、2項)。
コメント
本件の旧統一教会によるテレビ局や報道番組に出演していた弁護士らに対する名誉毀損訴訟については弁護士グループ26人が教団批判を萎縮させる効果を狙ったスラップ訴訟であり、報道機関を標的とした表現の自由への挑戦であるとして同教団を批判する声明を発表しております。過去にも宗教団体の献金を巡る訴訟(上記)でスラップ訴訟と認定されていることから、本件でもその点が争点になっていくものと予想されます。以上のように現段階では直接的な法規制は無いものの、一定の場合にはスラップ訴訟自体が不法行為とされ逆に賠償が命じられております。また言論封殺だけでなく、存在しないセクハラなどを理由とする損害賠償訴訟の提起でも場合によってはスラップ訴訟となり得ます。どのような場合にスラップ訴訟と認定されるのか、また実際に訴えられた場合にどのように対応すべきかを予め検討し準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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