写真無断使用で東武鉄道子会社に賠償命令、著作物の要件について
2023/02/10 知財・ライセンス, 著作権法
はじめに
自身が撮影した鉄道写真を無断でポスターに使用されたとして、撮影者の男性が東武鉄道とその子会社に賠償を求めていた訴訟でさいたま地裁は8日、50万円の支払いを命じていたことがわかりました。写真は著作物に当たるとのことです。今回は著作権法が規定する著作物の要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、埼玉県在住の30代男性が撮影した列車の写真を東武鉄道の子会社「東武ステーションサービス」が作成したポスターに無断で使用されたとされます。問題となった写真は東武鉄道の列車「SL大樹」「DL大樹」「スペーシア」「日光・きぬがわ」「リバティ」などの画像を先頭から最後尾まで全車両が1枚に収まるように加工したもので男性が自身のWEBサイト上で公開していたとのことです。同社は2020年10月頃にこれらの画像7点を男性に無断でポスターに使用し東武東上線の駅に貼っていたとされます。男性は同社と東武鉄道に対し計125万円の損賠賠償を求めさいたま地裁に提訴しておりました。
著作物と著作権
特許や意匠、商標などの産業財産権は特許庁などに出願し登録されないと権利は発生しませんが、著作権は著作物が創作された時点から自動的に創作した人に発生する権利です(著作権法17条2項、51条1項)。絵を描いたり、音楽を作曲した時点で即発生します。そしてその著作物に対する権利である著作権は一般に権利の束と呼ばれており、演奏権や複製権、公衆送信権など様々な権利が内包されております。また創作した本人だけでなく演奏したアーティストやレコード製作者、放送事業者など、その著作物を人々に伝える人にも著作隣接権と呼ばれる権利が認められております(89条~100条の5)。これら著作権が侵害された場合、差止請求(112条1項)や損害賠償請求(114条1項~3項、民法709条)、不当利得返還請求(民法703条)ができます。また罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されており(119条)、法人に対しても3億円以下の罰金となっております(124条)。
著作物性
著作権法2条1項1号によりますと、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」としております。「思想又は感情」とは人間の精神活動全般を指すとされており、「創作」とは創作者の何らかの個性が表現されていることで足りると言われております(東京高裁昭和62年2月19日)。そして「表現」とは、文字や記号、線、面、色彩、音階などの具体的表現手段によって外部に表されているものを意味するとされ、その表現のもととなったアイデアや着想自体は著作物に該当しないとされます。これらすべての要件を満たす場合に著作物として認められることとなります。そのため単なる事実やデータそのもの、一定の者であれば誰しもが作成できるもの、アイデアや作風それ自体は著作物には当たらないとされております。
写真の著作物性
それでは撮影された写真は著作物たり得るのでしょうか。この点について自身のWEBサイトにアップした横浜ベイブリッジの写真が無断使用された事例で裁判所は、手前の陸地が映らないようにされ、背後の風景や月が取り込まれるなど構図、アングル等を工夫されていることから著作物に該当するとしました(東京地裁令和元年6月26日)。またインスタグラムに投稿された写真についても、原告自身および洋服が際立って見えるよう工夫され、構図、アングルの設定、シャッターチャンスの補足等において原告の思想等を創作的に表現したものと認められるとしました(東京地裁令和3年3月26日)。それ以外にも撮影時間や時間帯、天候、撮影場所等の条件を選択し、被写体の選択および配置、構図ならびに撮影方法を工夫しシャッターチャンスを捉えて撮影したものとして著作物性を認めた裁判例も存在します(東京地裁令和2年12月23日)。このように構図やアングル、配置や場所の選定などに工夫が認められた場合は写真も著作物となり得ると言えます。
コメント
本件でさいたま地裁は男性がアップしていた画像について、自らの撮影意図に応じて構図や撮影角度などを補足しており、思想や感情を創作的に表現したもので著作物性を有するとし著作権を認めました。またURLを消去して写真をポスターに使用した点についても氏名表示権の侵害に当たるとしました。以上のように構図やアングル等の工夫がなされた写真は著作物と認められる可能性があります。そのためウェブサイト上に上げられている写真それぞれに著作権が生じている場合があり、安易にポスターやホームページのデザインに利用することは危険と言えます。今回は東武鉄道自体についてはマニュアルなどを作成し子会社にも配布していたことから責任は認められませんでしたが子会社の社内では行き届いていなかったと考えられます。これらを踏まえて著作物の扱いについて今一度社内で周知することが重要と言えるでしょう。
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