ゴッホ作「ひまわり」の元所有者遺族、作品の返還求めSOMPOを提訴
2023/01/16 海外法務, 民法・商法, 外国法
はじめに
損害保険会社大手のSOMPOホールディングス株式会社(東証プライム上場)は、2022年12月13日、同社が保有するゴッホ作の絵画「ひまわり」について、同作品の所有権を争う訴訟をアメリカで提起されました。報道によりますと、原告は、同作品の元所有者であるドイツ系ユダヤ人銀行家の遺族3名です。原告らは、絵画自体の返還または絵画の時価相当額の支払い、および約7.5億ドル(約1000億円)の損害賠償の支払いを求めているといいます。
ひまわり購入の経緯
ゴッホの代表作の一つである「ひまわり」はSOMPOホールディングスの前身の一つである安田火災海上保険が1987年にロンドンで行われたクリスティーズと呼ばれる世界最古の美術品オークションでおよそ53億円で落札。落札額は当時の史上最高値となりました。現在は東京・新宿のSOMPO美術館に所蔵されています。
もともとの所有者はパウル・フォン・メンデルスゾーン=バルトルディ氏。ドイツ系ユダヤ人の銀行家であり、美術コレクターとしても知られています。
アメリカ中西部イリノイ州の連邦地裁に提出された訴状によりますと、元所有者であるバルトルディ氏は、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害政策と経済制裁により困窮し、「ひまわり」をはじめとする、美術品コレクションの数々を売却せざるを得ない状況に追い込まれ、1934年に「ひまわり」を売却したといいます。
原告らは、安田火災海上保険が絵画の出所を無視した上で、「ナチスにより奪われた作品だと知りながら購入し、商業的な利益を不当に得ていた」などとして提訴に踏み切りました。
報道などによれば、SOMPO側は正式な訴状を受け取っていないとしたうえでひまわりの所有権について全面的に擁護していく姿勢を見せているということです。
メンデルスゾーン=バルトルディ氏コレクションをめぐる訴訟
メンデルスゾーン=バルトルディ氏とは銀行家でありながら、多くの美術品を所有していた人物といわれています。今回のゴッホのひまわり以外にも、クロード・モネ、エドゥアール・マネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、ジョルジュ・ブラックなどの絵画作品コレクションもあったということです。
海外メディアによりますと、銀行家であったことからナチスの標的となってしまい土地などの財産没収に追い込まれ、収入が9割近く減少。止むを得ず、コレクションしていた絵画などを手放したということです。コレクションは結果としてロンドンなどのオークションで出品されることになりました。
そうした中、彼の遺族はSOMPO以外にも返還を求める活動を行っています。
そのひとつがアメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されていた「Head of a Woman (女の頭部)」という青の時代のパステル画です。美術館は相続人の要求に対し、所有権を譲渡することに同意しました。
背景に“ワシントンの原則”
今回の訴訟の背景には「ワシントンの原則」があります。
1998年にナチスに没収された芸術に関するワシントン会議が開かれ、44の政府・組織がナチスによって没収・損失した美術品の返還について議論、「ワシントン原則」に合意しました。その内容はナチスに略奪されたとされる美術品について、その作品の出所を確認した上で、ユダヤ人元所有者の相続人と協議して「公正で公平な解決」を模索するというものです。
ナチスによる迫害で、さまざまなコレクションが世界中に散らばることになりました。一説によれば、略奪された美術品は約60 万点にのぼり、ルーヴル美術館にはナチスが略奪した芸術作品が約 1,700 点あるとも言われています。
この原則には法的拘束力はないものの、この原則が生まれてから、元遺族らは日本を始め世界各地で返還についてのアクションを活発に起こしています。
2001年には京都の清水三年坂美術館から今回とは別の遺族に返還された事例もあります。
ただ作品の出所を突き止めるのは時間がかかり、解決に至らないケースもあるということです。
コメント
自ら手放したのか、それとも没収によるものなのか。美術品の中にはオークションなどを介さず、盗まれてしまった物などもあるということで、出所の追求が困難な作品もあるということです。
会社が美術品を購入する際は、単なる売買契約として処理するのではなく、法務として、こうした返還請求のリスクがあることも踏まえ、慎重に対応する必要があります。
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