20年以上前の手抜き工事で提訴、除斥期間の起算点について
2023/01/11 訴訟対応, 民法・商法
はじめに
三重県志摩市のリゾートマンションで20年以上経過後に施工不良によるトラブルの発生が相次いでいるとして管理組合が施工会社を相手取り提訴することがわかりました。会社側は除斥期間の経過を主張しているとのことです。今回は除斥期間の起算点について見ていきます。
事案の概要
産経新聞の報道によりますと、三重県志摩市の観光名所近くに建つリゾートマンションで施工不良によるトラブルが相次ぎ、その修繕工事を巡って施工会社と管理組合との間で対立が生じているとされます。トラブルが発生しているのは平成9年11月竣工のマンション「ロイヤルヴァンベール志摩大王崎」で旧住友建設(現三井住友建設)が施工し、大和ハウス工業(大阪市)が分譲したものとのことです。施工不良は竣工4~5年で発覚し、鉄筋を覆うコンクリートの厚さが建築基準法施工令の規定に満たずに鉄筋が浸透した水分で錆びて膨張し、コンクリートが剥離する現象が発生しているとされます。天井から約1.5キロのコンクリート塊が落下したこともあったとされ、会社側は施工不良を認めた上で修繕工事を施したものの昨年6月に中断し、それ以降の無償修繕は行わない考えを示したとのことです。管理組合側は提訴する予定です。
除斥期間とは
除斥期間とは、一定の権利について、権利を行使しないまま一定の期間が経過することで権利を消滅させる制度を言います。法律関係を速やかに確定させることを目的としております。民法上でも争いはあるものの、除斥期間と考えられている規定がいくつかあり、法律行為から20年経過することによって消滅する取消権(126条後段)、盗難・遺失の時から2年で消滅する即時取得の回復(193条)、1年で消滅する占有の訴え(201条)、婚姻の取消期間(745条等)などが挙げられます。そして最も問題となるのが不法行為に基づく損害賠償請求権の除斥期間です。改正前724条後段では「不法行為の時から20年を経過したとき」と規定され、判例ではこれを除斥期間とされてきました(最高裁小法廷平成元年12月21日)。しかし平成29年改正によってこの規定は時効期間とされました。なお改正前の事例には適用されません。
時効と除斥期間
法律関係の速やかな確定という趣旨から、除斥期間と消滅時効には次のような違いがあると言われております。(1)除斥期間には中断がない、(2)除斥期間は停止しない、(3)裁判所は当事者が援用しなくてもそれを基礎に判断しなければならない、(4)起算点は権利発生時、(5)除斥期間には遡及効がないという違いがあります。消滅時効は裁判上の請求なや承認行為などによって完成猶予や更新が生じますが除斥期間にはありません。消滅時効は一定の事由の発生により停止することがありますが、除斥期間にはそれもありません。消滅時効は訴訟では当事者が援用を主張しなければ裁判所はそれを基礎とできませんが、除斥期間は援用されなくともそれを基礎とします。起算点も消滅時効は権利を行使できるようになった時点となっておりますが、除斥期間の場合は権利が発生した時点となります。そして時効の効果には遡及効がありますが、除斥期間にはそれもないと言われております。つまり原則として除斥期間はその期間が経過すれば問答無用で消滅するということです。
除斥期間に関する判例
除斥期間は上記のとおり中断や停止がなく、起算点も権利発生時とされております。しかし事案によっては不合理な結果となることから判例ではその例外を認める場合があります。まず不法行為から20年が経過する前6ヶ月内に心神喪失状態の場合、後見人が就任して6ヶ月以内に提訴するなどした場合は158条の法意により除斥期間の効果は認められないとしました(最判平成10年6月12日)。そして起算点についても、いわゆる公害など、身体への蓄積により人の健康を害する物質による損害などは不法行為により発生する損害の性質上、加害行為終了後相当の期間を経て損害が発生する場合には、起算点は損害の全部または一部が発生した時となるとしました(最高裁小法廷平成16年4月27日)。また予防接種によるB型肝炎ウイルスの感染事例についても発症時が起算点であるとしております(最高裁小法廷平成18年6月16日)。
コメント
本件でリゾートマンションの手抜き工事が行われたのが20年以上前とされます。そのため形式的に見た場合、すでに不法行為に基づく損害賠償請求権は除斥期間によって消滅しているように見えます。会社側もこれを根拠に無償修繕を拒否しているとされます。管理組合側は施工から20年間訴訟を起こさなかったのは双方の協議で都度解決を図っていたからとし、請求権は消滅していないと反論しております。上記のように裁判例ではその事案によっては除斥期間の起算点を損害発生時とするなど一定の例外を認めている場合もあり、本件でも裁判所の判断が注目されます。以上のようにこれまで不法行為による損害賠償の障壁となってきた除斥期間も現行法では消滅時効となっており、また裁判例でも一定の例外が認められてきております。いずれにしても迅速な対応が求められます。今一度これらの制度と判例を確認して準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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