ツツミが22%自社株消却、東証の上場維持基準について
2022/12/14 商事法務, 会社法

はじめに
宝飾品製造販売大手の「ツツミ」が自社株約22%分を30日に消却すると発表しました。流通株式比率の調整とのことです。今回は東京証券取引所の上場維持基準について見ていきます。
事案の概要
ツツミの発表などによりますと、東京証券取引所のスタンダード市場に上場している同社は上場維持基準の流通株式比率を満たしていないため、自己株式約445万株を消却し、流通株式比率を高めるとしております。これは発行済株式の22.16%に当たるものの、同社は創業家や財団が約6割を保有しており、9月時点での流通株式比率は2割に満たないとのことです。消却後の自己株式数は2,874株となり、発行済株式総数は約1560万株となります。今回の自己株式消却でも上場維持基準の流通株式比率には満たず、今後も比率向上を検討していくとのことです。
東証の市場区分
従前の東京証券取引所の市場区分は第一部、第二部、マザーズ、JASDAQの4つにわかれておりました。これは2013年の大阪証券取引所との統合の際に上場会社や投資家に影響が出ないように、それぞれの市場構造を維持したことによるとされております。しかしこの区分では各市場のコンセプトが曖昧であること、また新規上場基準より廃止基準のほうが大幅に低いことから、上場時の水準維持の動機づけが弱いことなど課題があったとされ、今年4月4日から市場区分が一新されました。現在の東証の市場区分はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つとなります。プライム市場はグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けとされ、スタンダード市場は投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向け、そしてグロース市場は高い成長可能性を有する企業向け市場となっております。
各市場の新規上場基準
東証の新しい市場への新規上場基準は大きく(1)流動性、(2)ガバナンス、(3)経営成績・財政状態の3つに分かれます。プライム市場では、流動性として株主数が800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、売買代金時価総額250億円以上となります。ガバナンスは安定株主の比率が高くなく公開性が高いことを意味し、流通株式比率35%以上とされます。そして最後の経営成績については最近2年間の利益合計が25億円以上、売上高100億円以上かつ時価総額1000億円以上とされます。スタンダード市場では株主数400人以上、流通株式数2000単位以上、流通株式時価総額10億円以上で、流通株式比率は25%以上、最近1年間の利益は1億円以上となります。そして最後にグロース市場では、株主数は150人以上、流通株式数1000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%となります。経営成績の基準が無い代わりに事業計画の合理性などが求められます。
各市場の上場維持基準
従来の東証一部の上場廃止基準は株主数400人未満、流通株式数2000単位未満、流通株式時価総額5億円未満、流通株式比率5%未満など、新規上場基準に比べかなり緩やかな基準となっており、上場後にその水準を維持する動機づけが弱いとされてきました。そこで新しい市場区分での上場維持基準は新規上場基準とほぼ同様となります。つまり流動性、ガバナンスの基準は新規上場と同じ数字となり、プライム市場では株主数800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株式時価総額100億円以上、流通株式比率35%など新規上場時の水準の維持が求められます。経営成績に関しては純資産額がマイナスになっていないことと若干基準が異なります。スタンダード市場、グロース市場も同様ということです。なお全ての市場で、銀行取引停止、倒産、虚偽記載、M&Aなどの共通上場廃止事由が別途存在します。
コメント
本件でツツミの発行済株式の約6割が創業家や財団が保有しており、流通株式比率は2割を切っているとされております。上場維持基準の流通株式比率は、投資家と会社との建設的な対話を促進する観点から、特別決議のための水準を安定株主が占めないようにするための基準です。スタンダード市場では25%以上が求められており、今回の自己株式消却でも基準に満たないとされます。今後第三者割当増資などを行って比率を高めていくことが予想されます。以上のように現在の東京証券取引所では市場区分が刷新され、それに伴って上場基準や上場維持基準も一新されております。株式市場への上場を検討している場合は、株式の流動性やガバナンス体制の構築など新しい基準での準備を、専門家を交えて進めていくことが重要と言えるでしょう。
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