労働政策審議会の検討が大詰め、裁量労働制拡大の動き
2022/11/30   労務法務, 労働法全般

はじめに

 厚労省の労働政策審議会で裁量労働制の対象拡大に向けた議論が大詰めを迎えております。2018年の働き方改革関連法では法案から削除されておりました。今回は裁量労働制について見直していきます。

 

事案の概要

 経団連は今年6月に「サステイナブルな資本主義を実践する-2022年度事業方針-」を公表し、裁量労働制の対象拡大の早期実現を目指す方針を明らかにしました。労働時間と成果が比例しない働き手の能力発揮を可能とする労働時間法制の見直しが目的とのことです。具体的には企画型の対象を拡大し、ITシステムの開発者や人事部での働き方改革の企画・改善、金融機関等での企業のM&Aに携わる業務にも裁量労働制を導入したいとしております。政府はかねてより裁量労働制の拡大を目指しており、2018年にも一部の営業職を対象とする法案が作成されておりました。しかし法案の根拠となっていた厚労省の調査データに多数のミスが見つかり、法案は削除された経緯があります。一方この動きに対しては長時間労働の助長につながりかねないとの反発の声も上がっております。厚労省は年内にも結論を出す方針です。

 

裁量労働制

 裁量労働制とはそもそもどのような制度なのでしょうか。裁量労働制はみなし労働時間制の一種で、労働時間が労働者の裁量に委ねられている労働契約を言うとされております。たとえば契約でみなし労働時間を1日8時間と定めた場合、実際の労働時間が何時間であっても8時間働いたとみなされます。これは業務の性質上、通常の労働時間制になじまない職種・業態に合わせて、労働者の判断で働くことを可能とするものです。そのため裁量労働制を導入した場合、会社側は基本的に労働者に就業時間や業務の遂行方法などの指示は行わないこととなります。出勤・退勤時間をその労働者に任せるということです。似た制度として「みなし残業制度」がありますが、こちらは契約で一定の時間外労働をしたものと定め、一定の残業代を支払うというもので、所定労働時間そのものを対象とした裁量労働制とは異なります。

 

裁量労働制の対象

 裁量労働制は大きく分けて専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。前者の対象は厚労省令で定められており、(1)製品の研究開発等を行う研究業務、(2)情報処理システムの分析設計業務、(3)新聞・出版・放送等の取材・編集業務、(4)衣服や室内装飾、広告等のデザイン考案業務、(5)放送・映画等のプロヂューサー、ディレクター業務、(6)コピーライター業務、(7)システムコンサルタント業務、(8)インテリアコーディネーター業務、(9)ゲームソフト開発業務、(10)証券アナリスト業務、(11)金融派生商品等の開発業務、(12)大学での研究、(13)そして弁護士、公認会計士、税理士などの士業となっております。そして後者は事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析業務であって、本社・本店またはそれに準ずる事業計画や営業計画の決定等を行っている事業場や支店で採用できます。会社の中核を担う部門と言えます。

 

裁量労働制の導入手続き

 専門業務型裁量労働制を導入するには、対象業務、業務遂行の方法や時間配分の指示をしない旨、みなし労働時間、有効期間などを労使協定で定め、労基署に届けることとなります。一方企画業務型の場合はやや複雑で、労使委員会を設置し、労使それぞれの代表の選定、運営ルールの策定し、対象業務の範囲、対象労働者の範囲、みなし労働時間、有効期間などを労使委員会の5分の4以上の多数によって決議する必要があります。そして労使委員会は委員の半数が労組によって指名されていること、委員会の開催のたびに議事録を作成し3年間保存すること、議事録を作業場に掲示または備え付けることによって労働者に周知すること、委員会の運営や定足数などに関する規定が定められていること、委員であることを理由とする不利益取り扱いをしないようにすることなどの要件があります。委員会での決議についても労基署への届け出を要します。

 

コメント

 現在政府および労働政策審議会は裁量労働制、特に企画業務型の対象を拡大する方向で検討が進められております。かねてからの経団連による要望によるものです。厚労省の調査では専門型の裁量労働制を導入している企業は2%、企画業務型を導入している企業はわずか0.4%に過ぎないとされます。特に企画業務型はその対象が企業の企画や運営に携わる中核的な業務に限られており、範囲が狭すぎるとの声が上がっておりました。そこでITシステム開発や人事、M&Aなどに関する業務への拡大が検討されております。しかし一方でこれにより長時間労働を助長するといった声も上がっており、調整を要するところと言えます。今後の法改正の動きを注視しつつ、自社に合った労務管理を模索していくことが重要と言えるでしょう。

 

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