消費者安全法の重大事故等に係る公表について
2022/11/30   危機管理, 消費者契約法

はじめに


消費者庁は、11月25日、消費者安全法に基づき関係行政機関等から生命・身体被害に関する消費者事故等として通知された事案数及び概要を公表しました。
内訳は、生命・身体被害に関する消費者事故等として通知された事案が88件、そのうち重大事故等として通知された事案は24件となっています。

消費者安全法は、消費者の消費生活における被害を防止し、その安全を確保するために制定された法律ですが、この法律の適用がどのようにされているのか、具体的事例を挙げて公表することにより、企業に対する注意喚起を行うことが狙いです。

 

消費者事故とは


今回公表された事例は、消費者安全法12条第1項又は第2項及び第29条第1項又は第2項の規定の適用がある事例になります。これらの規定は、消費者事故等が発生した場合に、行政に通知が行われる制度です。

通知の対象となる「消費者事故等」とは、消費生活において消費者に被害が発生した事故や事故を引き起こすような事態をいいます。消費者事故等には、人の生命・身体に現実に被害が生じている場合のみならず、被害が発生するおそれのあるものも含まれ、また、財産被害もこれに含まれうることに注意が必要です。例えば、バッテリーから出火して火災が生じたなどの例が挙げられます。財産被害としては、例えば、虚偽・誇大な広告・表示であったり、契約締結・履行、申し込みの撤回・解除・解約に際して、消費者を欺き、威迫し、困惑させる行為等が例として挙げられます。

 

具体的事例


公表された通知事例は、火災事例と事故等による重傷事例とに大別されます。特に、火災事例に関しては、PL法等によりメーカー側が民事責任を負う可能性が高い事例が多いことが特徴として挙げられます。

(1)火災事例
カーナビゲーション、自動車、ソーラー充電式・屋外用照明器具、電動アシスト自転車用のリチウムイオンバッテリー、除湿機、電子レンジ庫内、延長コード、ガス衣類乾燥機、充電式マッサージ機、刈払機、IH調理器、ポータブル電源(リチウムイオン)、ヘアドライヤー、エアコン室外機、電気掃除機用リチウムイオン
からの出火。

(2)事故等による重傷事例
①乗合バスがバス停で停車しようとブレーキをかけたところ、降車しようと立ち上がっていた70歳代の乗客が揺動により転倒し、右大たい骨頸部骨折。

②障害福祉施設にて、90歳代の利用者を車椅子からベッドに移乗(職員2人、スライドボードを利用)した際、右上腕骨折。移乗の際、利用者の右手に自身の体重がかかったことが原因と推定。

③介護施設にて、職員が離床介助を行うにあたり、90歳代の利用者を持ち上げて体勢を直した際、利用者の左下肢が車椅子のパイプ部分に当たり、左腓骨及び左脛骨骨折。

④介護施設にて、トイレ介助を求める70歳代の利用者がナースコールで職員を呼び出そうとしたものの、ナースコールが故障しており、利用者が単独で移動しようとして転倒し、右大たい骨転子部を骨折。なお、設置されていた離床確認用のセンサーマットも職員の電源入れ忘れにより作動せず。

【参考リンク】
消費者安全法等に基づく重大事故等の一覧表(年間)

 

消費者安全法上の事業者の義務


消費者安全法上、事業者に対しては、「消費者安全の確保に自ら努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する消費者安全の確保に関する施策に協力するよう努めなければならない。」(同法5条1項)として努力義務が課されています。形式上、“努力義務”として規定されてはいますが、内閣総理大臣は、重大生命身体被害の発生又は拡大の防止の必要があると認めた場合、勧告・是正命令をすることができ、その旨が公表されてしまいます(同法40条)。このような消費者事故等に関して命令を受けたことの公表は、企業としてはイメージダウンにつながるため、相応に実効性のある規定といえるでしょう。

また、勧告・是正命令に従わなかった場合には、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられます(同法52条)。この規定も、消費者保護のために実効性をもたせる意味合いを持ちます。企業としては、このような規制がある以上、消費者安全の確保に関する施策に協力することが努力義務に留まるとあぐらをかくわけにはいきません。

 

コメント


昨今の日本においては、消費者三法をはじめとする消費者保護のための法整備が進み、消費者被害の事例は下火になってきています。それは企業側が消費者保護規定を順守する姿勢を貫いているからにほかなりません。

今回取り上げた消費者安全法は、消費者安全法施行令・施行規則等に規制の具体的内容を委任していることも多々あります。このように、消費者安全についての規定は多岐にわたるため、法務パーソンとして、これらの規程を把握し、商品・サービスに内在する法令上のリスクを判断する必要があります。

これを機会に、消費者安全法をはじめとする消費者保護規定について、再確認しておくとよいでしょう。

 

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